Cheap Trickのテキスト書庫

Cheap Trickファンサイトで過去に書いた文を加筆訂正して転載します

【Discography】Cheap Trick(1997)

Cheap Trick(1997/red ant)

1.Anytime
2.Hard To Tell
3.Carnival Game
4.Shelter
5.You Let A Lotta People Down
6.Baby No More
7.Yeah Yeah
8.Say Goodbye
9.Wrong All Wrong
10.Eight Miles Low
11.It All Comes Back To You

Bonus tracks (Japanese edition only): 
12.Baby Talk
13.Brontsaurus

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1996年にバンドは自主レーベル"Cheap Trick Records"を設立。Castle Communicationの姉妹レーベルred antからリリースされた1997年のアルバム。(日本盤はビクター・エンターテインメントから1996年に発売) Billboard 200で最高位99位を記録。

共同プロデューサーに「One On One」(1982)でエンジニアを務めていたイアン・テイラーを迎え「1stアルバム以外で、唯一レーベルの干渉が全くない状況で作られた」(トム・ピーターソン)アルバムである。

Cheap Trickの音楽の根幹を成す、陰りのあるメロディとライブ感のあるサウンドを、1990年代に興隆したオルタナティブ・ロック/グランジの影響を反映させてアップデートさせたような音楽性といえる。時流の音に接近した"Anytime"や"You Let A Lotta People Down"といった曲がある一方で、これまでのアルバム同様にBeatles、Rolling Stones等メンバーの音楽のルーツが明瞭に表れたパートが多い。

同時期に両親を亡くしたリックとロビンの心境が込められたアコースティック・バラード"Shelter"や、アグレッシブな歌唱で裏切った人物に対して警告する(バンドの前マネージャーに向けたメッセージと言われる)"You Let A Lotta People Down"のように、パーソナルな歌詞が含まれた曲と、生々しい音が相俟って、Cheap Trick史上随一のエモーショナルさを感じさせるのも特徴である。

バンド・メンバーの友人であるジェリー・デイル・マクファデン、ロバート・レイノルズ(Mavericks)、ジェイミー・ミーカといったミュージシャン達との楽曲のコラボレーションもプラスに働き、全編暗めのトーンで統一されながらバラエティに富んだ名作となった。

日本盤のみ、1997年初頭にスティーヴ・アルビニのプロデュースでサブ・ポップ・レーベルより7インチシングルとしてリリースされた2曲をボーナス・トラックとして収録。"Baby Talk"はオリジナル曲。"Brontsaurus"は1970年に全英7位を記録したThe Moveのヒット曲のカヴァーである。海外盤CDには1曲めの前に2分58秒のシークレット・トラックが収録されている。また、日本とオーストラリアではメンバーの姿が写った別のジャケット・デザインでリリースされた。

【Discography】Woke Up With A Monster(1994)

Woke Up With A Monster(1994)

1.My Gang
2.Woke Up With A Monster
3.You're All I Wanna Do
4.Never Run Out Of Love
5.Didn't Know I Had It
6.Ride The Pony 7.Girlfriends
8.Let Her Go
9.Tell Me Everything
10.Cry Baby
11.Love Me For A Minute
Bonus track
(Japanese edition only):
12.Sabre Dance

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デビュー以来在籍していたエピック・ソニーを離れ、ワーナー・ブラザーズに移籍してリリースした12枚めのスタジオ・フル・アルバム。

ジャケット・デザインやブックレットのアーティスト写真からも伺えるように、エピック時代のバンドのイメージを一新。テッド・テンプルマンをプロデューサーに迎えて、バラエティに富んだ楽曲をライブ感のあるサウンドで聴かせてくれる。

収録曲の大半は、アルバムのために書かれた新曲だが、一部の曲は古い曲のデモを再録している。AC/DC風の"Girlfriend"は、80年代初期に録音されたアウトテイク"Don't Steal My Girlfriend"が原型。ロビンとマーク・スピロが共作した"Ride The Pony"と、ロビンとニック・グラハムが共作した"Let Her Go"は元々はロビンのソロ・アルバム「Robin Zander」(1993)レコーディング時に書かれた曲である。

1stシングルとしてリリースされたアルバム・タイトル曲 、日本での1stシングル" "You're All I Wanna Do"は、何れもCheap Trickの音楽の源泉であるBeatlesの影響が伺える曲。日本独自でシングル・カットされた"Never Run Out Of Love"はリックとジム・ピートリックの共作で、歌詞に日本のファンへのメッセージが込められたパワー・バラード。Cheap Trickの真骨頂たるメロディセンスが発揮された曲が軒を並べる中、傑出しているのがリックとトッド・カーニーが共作した"Didn't Know I Had It" 長きに亘りライブで演奏され続けている、バンド史上に残る名曲といって良いだろう。

アルバムのリリース後に、Cheap Trickと契約したレニー・ワロンカーとモ・オースティンが解雇されたこともあり、日本以外の国でアルバムは十分にプロモーションされず、セールス面では苦戦。総合アルバム・チャート(Billboard 200)で最高123位を記録するに留まった

【Discography】Busted(1990)

Busted(1990)

1.Back'n Blue
2.I Can't Understand It
3.Wherever Would I Be 
4.If You Need Me
5.Can't Stop Fallin' Into Love
6.Busted
7.Walk Away
8.You Drive,I'll Steer
9.When You Need Someone
10.Had To Make You Mine
11.Rock'n' Roll Tonight
12.Big Bang
*Japanese edition bonus track

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大ヒット作「Lap Of Luxury」('88)に続いてリッチー・ズィトーをプロデューサーに迎えた1990年リリース作。1stアルバムから在籍していたエピックからリリースされた、最後のオリジナル・アルバムとなった。

  「Lap Of Luxury」同様、3曲めに外部ソングライター(ダイアン・ウォーレン)のバラード"Wherever Would I Be"を配した構成に、再びAOR路線でのヒットを期待するレーベルの意図を感じられるが、この曲と、ロイ・ウッドのカヴァー"Rock 'N' Roll Tonight"を除く全ての曲にメンバーがソングライティングでクレジットされているのが、外部ライターの曲が大半を占めた「Lap Of Luxury」と大きく異なる。

  メンバーが楽曲の主導権を再び握ったことでRolling Stones風の"Back'n Blue"や、Beatles風の"Had To Make You Mine"、ソウルフルな"Can't Stop Fallin' Into Love"のようにルーツ色が明確に出て、音の面でもライブ感のあるバンド・サウンドを取り戻している。整合感にはやや欠けるが、レーベルからの制約がありながら、バンドが本来の方向性に軌道修正した点でターニングポイントとなったアルバムである。

  Foreignerのミック・ジョーンズが"If You Need Me"のソングライティングとギター・ソロで、Pretendersのクリッシー・ハインドが"Walk Away"のヴォーカルで、Sparksのラッセル・ミールが"You Drive,I'll Steer"のバッキング・ヴォーカル、White Lionのマイク・トランプが"Busted"のバッキング・ヴォーカル(クレジットにはなし)でゲスト参加。元Pocoのギム・ブラードがキーボードを担当している。

  "Can't Stop Fallin' Into Love"が最高位12位(Billboard Hot 100)、"Wherever Would I Be"が最高位50位(同上)、アルバムが最高位45位(Billboard 200)を記録した。

【Discography】Lap Of Luxury(1988)

Lap Of Luxury

1.Let Go
2.No Mercy
3.The Flame
4.Space
5.Never Had A Lot To Lose
6.Don't Be Cruel
7.Wrong Side Of Love
8.All We Need Is A Dream
9.Ghost Town
10.All Wound Up

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1987年にトム・ピーターソンがバンドに復帰。リッチー・ズィトーのプロデュースのもとAOR寄りの音楽性を推し進めた1枚。"The Flame"(最高位1位・Billboard Hot100) "Don't Be Cruel"(エルビス・プレスリーのカヴァー:同4位) "Ghost Town" (同33位)"Never Had A Lot To Lose"(同75位)という4枚のヒット・シングルと共にアルバムはロング・セラーを記録し、バンドが第一線へカムバックを果たす手助けとなるアルバムとなった。

このアルバム制作のためにメンバーは50曲以上書いたが、レーベルの指示で外部ライターの曲が多数収録された。1980年代後期にHeart、Aerosmith等に楽曲提供し名を馳せたホリー・ナイト、ダイアン・ウォーレン、ジャナ・アレンといったメジャーどころはもとより,トッド・カーニーのようなカントリー/ブルーグラス系のライターの曲も取り上げている。

グレッグ・ジェフリアのキーボードをフィーチュアした"All You Need Is A Dream"、メンバーが作曲に関わっていない"No Mercy"といった曲に端的に表れているように、従来のギター・リフが牽引するバンドサウンドは抑えめに、重厚なバッキングの上でロビンの多彩なヴォーカルを聴かせる音楽性がアルバムの核になっている。この新機軸にロビンの歌唱力、声の美しさが良くマッチしたバラード2曲"The Flame"(ボブ・ミッチェルとニック・グラハムによる作曲) "Ghost Town"(リックとダイアン・ウォーレンの共作)は、アルバムのハイライトといって良いだろう。

"Wrong Side Of Love"や"All Wound Up"といった、トム・ピーターソンの存在の大きさを感じさせる楽曲の中で、特にCheap Trickのライブ・バンドとしての魅力が結集しているのが、キャッチーなコーラス・ハーモニーが印象的なハード・ロック"Never Had A Lot To Lose"(トム、リック、ロビンの共作)この曲の歌詞はトムについて書かれている。

【Discography】The Doctor(1986)

The Doctor(1986)

1.It's Up To You
2.Rearview Mirror Romance
3.The Doctor
4.Are You Lonely Tonight
5.Name Of The Game 6.Kiss Me Red
7.Take Me To The Top
8.Good Girls Go To Heaven(Bad Girls Go Everywhere)
9.Man-U-Lip-U-Lator
10.It's Only Love

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1986年11月にリリースされた9thフル・アルバム。ビルボード200で最高位115位を記録した。前作「Standing On The Edge」で、ジャック・ダグラスの仕事を引き継いだイギリス人のプロデューサー・トニー・プラットをプロデューサーに迎え、イギリスとアメリカでレコーディングとミックスを行い、アメリカでマスタリングが行われた。

リックが単独で書いたアルバム・タイトル曲、リック、ロビン、トニーの共作"Man-U-Lip-U-Lator"、ビリー・スタインバーグとビル・ケリーのコンビによる"Kiss Me Red"以外の7曲は全てリックとロビンの共作である。

シークエンサー/キーボード、コーラス・ハーモニー、エフェクトを多用したアレンジは、メンバーも認めるように明らかなオーバー・プロデュースで、4ピースのバンドらしさが重厚なサウンドの中に埋没。リックのアグレッシブなギター、ロビンのパワフルなヴォーカルこそCheap Trickとしての個性を感じさせるものの、バン・Eとジョン・ブラントの存在感は薄い。

楽曲自体のクオリティは総じて高く、また曲調もバラエティに富んでいるため一本調子なアレンジの割に、起伏のあるアルバムという印象を与える。そのポジティヴな歌詞と併せて高揚感を与えてくれる"It's Up To You" アルバムのツアーでも演奏された"Rearview Mirror Romance" リックのスリリングなギター・プレイをフィーチュアした"The Doctor"。シングル・カットされたポップな"It's Only Love" "後にライブ・アルバム「Silver」にも収録された美しいバラード"Take Me To The Top"等、名曲が揃っている。

【Discography】Standing On The Edge(1985)

1.Little Sister
2.Tonight It's You
3.She's Got Motion
4.Love Comes
5.How About You
6.Standing On The Edge
7.This Time Around
8.Rock All Night
9.Cover Girl
10.Wild Wild Women

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1985年7月にリリースされた、8枚目のスタジオ・フル・アルバム。全米総合チャート(Billboard 200)で最高位35位を記録。

前作「Next Position Please」(1983)がセ-ルス面で惨敗。輸入盤裏ジャケットのリック・ニールセンの"Rick Nelson"という、初歩的なミスプリントからも伺えるように、 レーベルにおけるバンドのプライオリティが決して高くない状況下で作られたアルバムであるが、シングル・カットされたパワー・バラード"Tonight It's You"は、総合シングル・チャート(Billboard Hot 100)でトップ50入りを記録。"She's Tight"以来3年ぶりのメジャー・ヒットで存在感をアピールした。

「Found All The Parts」でのレコーディング以来、4年ぶりに手を組んだジャック・ダグラスがプロデュースを担当。ジャックは単独でプロデューサーとしてクレジットされているが、当時ジャックはオノ・ヨーコとの間に、ジョン・レノンの「Double Fantasy」のギャランティに関する法的問題を抱えており、訴訟に集中するためにミキシングの途中で仕事をトニー・プラットに引き継いだ。

疾走感のある"Little Sister" Small Faces、Yardbirdsといった1960年代のブリティッシュ・バンドの影響が伺える"How About You" ヘヴィなバッキングに、ロビンの張りのあるヴォーカルが映えるアルバム・タイトル曲。高揚感を喚起するメロディを備えた"This Time Around" ポップな"Cover Girl"、叙情的な美しいバラード"Love Comes"と、名曲、佳曲が揃っている。

重厚なキーボードとエレクトロニック・パーカッションをフィーチュアした"She's Got Motion"や、AC/DCの影響が色濃い"Wild Wild Women"といった完成度、オリジナリティ不足の曲もあるものの、当時メインストリームだったアメリカン・ハードロックや、ヘヴィ・メタルCheap Trickの音楽性との接点を突き詰め、それらに比肩するモダンでスケールの大きなサウンドを獲得したアルバムといえるだろう。

全10曲中9曲でキーボードを弾き、一部ギターも演奏。ソングライティングでも全面的に関わったシンガー・ソングライター・マーク・ラディスの貢献度の高さも見逃せない。

【Discography】Next Position Please(1983)

1.I Can't Take It
2.Borderline
3.I Don't Love Here Anymore
4.Next Position Please
5.Younger Girls
6.Dancing The Night Away
7.You Talk Too Much
8.3-D
9.You Say Jump
10.Y.O.Y.O.Y
11.Won't Take No For An Answer
12.Heaven's Falling
13.Invaders Of The Heart
14.Don't Make Our Love A Crime

[authorized version]
1.Can't Take It
2.Borderline
3.I Don't Love Here Anymore
4.Next Position Please
5.Younger Girls.
6.Don't Make Our Love A Crime
7.3-D
8.You Talk Too Much
9.Y.O.Y.O.Y
10.Won't Take No For An Answer
11.Heaven's Falling
12.Invaders Of The Heart
13.Twisted Heart
14.Don't Hit Me With Love
15.You Say Jump
16.Dancing The Night Away


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Cheap Trickのメンバーと1960年代から繋がりがあり、気心のしれたトッド・ラングレンをプロデューサーに迎えた1983年リリース作。

一聴してトッドのディレクションと解る、エッジ抑えめの洗練された音はCheap Trickの生のライブのそれとは距離があるが、その分バンドの持つポップ・センスが良く活かされた名曲が軒を並べている。ミュージック・ビデオが作られた、ロビン作の"I Can't Take It"を筆頭に、バンドのライブ・フェイバリット"Borderline" 、陰りのあるメロディが印象的な"I Don't Love Here Anymore"、もの悲しいバラード"Y.O.Y.O.Y"、歌詞が当時の彼らの心情を吐露しているようなアルバム・タイトル曲と、ソングライティングで新生面を見せた曲が多い。

トッドが提供したハード・ポップ"Heaven's Falling"も、上手くハマっているが、オリジナル版では、レーベルの意向で収録されたMotorsのカヴァー"Dancing The Night Away"(イアン・テイラーがプロデュース)と、これもレーベルの指示でシングル向けの曲として追加で<書かされた>(が、実際にはシングル・カットされなかった)"You Say Jump"の2曲は音楽的に明らかに浮いており、流れを遮っている。

2012年にリリースされたボックス・セット「The Complete Epic Albums Collection」に収録され、後にサブスクでも聴けるようになった"authorized version"は、そのタイトル通りバンドの意向を反映した「Next Position Please」のニュー・バージョン。オリジナルの曲順を入れ替え、"Twisted Heart" と、未発表曲"Don't Hit Me With Love"を追加収録した、決定版といえる内容だ。