Cheap Trickのテキスト書庫

Cheap Trickファンサイトで過去に書いた文を加筆訂正して転載します

【Discography】The Latest(2009)

The Latest(2009)

1.Sleep Forever
2.When The Lights Are Out
3.Miss Tomorrow
4.Sick Man Of Europe
5.These Days
6.Miracle
7.Everyday You Make Me Crazy
8.California Girl
9.Everybody Knows
10.Alive
11.Times Of Our Lives
12.Closer, The Ballad Of Burt And Linda
13.Smile

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テネシー州ナッシュビルを拠点とするレーベルBig Machine Recordsからの初のリリースとなる、通算16枚めのスタジオ・フル・アルバム。プロデュースはバンド自身とジュリアン・レイモンド、ハワード・ウィリング。ロジャー・ジョセフ・マニングJr.がキーボーディストとして参加。

2007年から断続的に行われた、Beatlesのマスターピース「sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band」を再現したコンサートのシリーズで自らの音楽のルーツを改めて掘り下げ、その影響が反映されたことが伺える「3曲毎に組を成し、計4組から成る」(リック)コンセプチュアルな内容である。

9.11で亡くなったメンバーの関係者に捧げたオーバーチュア的小曲"Sleep Forever"でスタートし、小気味のいいコンパクトなロック・チューンと、特に後期Beatlesの影響が色濃い凝ったアレンジが施されたミディアム~スロウ・チューンが均等に収められ、それらが間をおかず次々に飛び出してくる。

"Elo Kiddies"のリズムの源泉を自ら明かしたようなSladeのカヴァー"When The Lights Are Out"では、実際に"Elo Kiddies"のドラムサウンドをサンプリングして使用。ロビンのソロ・アルバム「Robin Zander」(1994)のアウトテイクだった"Miss Tomorrow" 1995年前後にドリンク"Pepsi"のCMのジングル用に書かれた曲を基にした"Everyday You Make Me Crazy" スコッティ・ムーアとDJフォンタナを中心とした企画アルバム「All The King's Men」(1998)収録の"Bad Little Girl"を再アレンジした"California Gril"と、純粋な新曲でない曲も多く含まれ、アルバムの根幹に大きなテーマがあるわけではないのだが、全編違和感なく、自然な流れを生んでいる。

サウンドも歌詞もThe WhoThe Kinksといったブリティッシュ・ロックのオリジネイターへのトリビュートと受け取れる、アルバムのリーダー・トラック"Sick Man Of Europe"のようなアグレッシブなロック・チューンがある一方で、明るく軽快な"California Girl"のような曲もあり、これまでの作品同様ブリティッシュな要素とアメリカンな要素が絶妙にミックスされている。Cheap Trickのキャリア史上最もメロウさが強調されたアルバムともいえるが、曲調、アレンジ共にバラエティに富み"Everybody Knows" "Smile"のような新機軸の名曲も生まれている。

円熟した各メンバーの演奏の素晴らしさは言わずもがな、ロビンのヴォーカルの表現力の多彩さはキャリアのベスト・ワークといってもよいほど。最後は"Everyting will be alright"と歌われる壮大な"Smile"でポジティブに幕が閉じられる。自らの音楽のルーツを明瞭に打ち出しながら、同時に未来もしっかり見据えたバンドを代表する傑作の1枚。