Cheap Trickのテキスト書庫

Cheap Trickファンサイトで過去に書いた文を加筆訂正して転載します

【Discography】Cheap Trick(1977)

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Cheap Trick(1977)

1.Elo Kiddies
2.Daddy Should Have Stayed In High School
3.Taxman Mr.Thief
4.Cry,Cry
5.Oh,Candy
6.Hot Love
7.Speak Now Or Forever Hold Your Peace
8.He's A Whore
9.Mandocello
10.The Ballad Of TV Violence
Bonus tracks:
11.Lovin' Money (outtake)
12.I Want You To Want Me(early version)
13.Lookout (previously unreleased studio version)
14.You're All Talk (previously unreleased studio version)
15.I Dig Go Go Girls (previously unreleased studio version)

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  Sick Man Of Europe等の前身バンドを経て、1977年にリリースされたデビュー・アルバム。当初メンバーがジョン・レノンにプロデュースを依頼したことで知られているが、オファーは結局ジョン本人の耳まで届かず、ジャック・ダグラス(Aerosmith、Starz、パティ・スミス他)がプロデュースを手掛けることとなった。

  後にポップな"Surrender"や"Dream Police"を演るバンドと同じバンドとは思えない、全編ダークな色彩に彩られたアルバムである。ハード・ロックではあるが様式的なそれでなく、パンク的な要素もあるがパンクではない。アメリカのバンドにしてはイギリスの音楽の影響が強いが、従来のブリティッシュ・ロックとは一線を画す。

  アグレッシブに唸るギター、重厚なリズムが、骨太ながら艶も備えたロビンのヴォーカルと調和してオリジナリティ溢れるサウンドを産み出している。4つの個性のぶつかり合いが生み出す、ヘヴィネスとポップ・センスの絶妙な融合、明るくなりきれないメロディ。Cheap Trickサウンドの基本は既にここで完成されている。

  歌詞も、暗いテーマのもの、ひねくれた内容のものが多く、コマーシャリズムという点ではCheap Trickの70年代のアルバムの中では一番弱いのだが、どの曲もメロディの質は高く、ライヴでアレンジが磨きあげられたのが想像できるキャッチーなコーラスを備えている。リック、ロビン、トムが共作した"Oh,Candy" テリー・リードのカヴァー"Speak Now Or Forever Hold Your Peace"(※一部歌詞を変えている)を除く8曲は、リックが単独で書いた曲。"Mandocello"以外の9曲は、現在に至るまでライブで演奏され続けている。

アルバムの曲順は、オリジナルのLPは"Hot Love"から"The Ballad Of TV Violence"までの5曲が「side A」"Elo Kiddeies"から"Oh,Candy"までの5曲が「side 1」と記されていたが、1998年にリマスター、ボーナス・トラック付きでCDが再発された際に、メンバーが本来意図した"Elo Kiddies"で始まる(side Aが先の)曲順でリリースされた。

~リック・ニールセン、ロック人生、30年を語る~ 東放学園音響専門学校・特別公開講座 Feb,21 2008

□■回想メモ■□

2008年2月。武道館公演を2か月後に控えたリック・ニールセンが一人でプロモーション来日。東放学園音響専門学校で学生さん向けのイベントを行いました。参加者の募集要項がどのようなものだったか、記憶が定かでないのですが、一般の枠で参加させていただきました。その時のレポートです。

 

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  武道館公演決定の興奮も冷めやらぬうちに、リック・ニールセンが単独でプロモーション来日の報が。 しかも、今回は単なるメディア露出だけでなく、東京・新宿にある専門学校、東放学園音響専門学校で"特別講師"として話をするというではないですか。在校生に加え、一般の人も限定で50人招待されたリック先生による"ロック講座"に出席して参りました!

  ステージ上に大きなスクリーンが貼られた地下のスタジオは、東放学園の生徒さん、一般のファンに加えメディア関係者で満員! 立ち見の人も多く開演前から凄い熱気(実際に場内は少々暑く、リックも温度を下げてくれとリクエストし、その後適温に下げられた)

  まず、学校で"ロック史"を担当している酒井努先生が簡単にCheap Trickの歴史を紹介したあと、挨拶代わりにスクリーンに"Never Had A Lot To Lose"のビデオが流されました。もう飽きるほど見たPVですが、この大画面で見ると実にエキサイティング!

  しかし、今日は"講義"ということで興奮は内に秘めて椅子に座ったままこの名曲に浸ります(笑) ゲストコーディネーターの我妻広己(東放学園音響専門学校・講師/音楽評論家)さんと酒井先生がCheap Trickについてひとしきり語り、いよいよリックが登場。モデルを務めているJohn Varvatosの黒いスーツを纏ったリックは、大歓声で迎えられます。BGMは"Clock Strikes Ten"のイントロ…「時計は10時を指した、土曜日の夜~」って、"講義"のはじまりにこの曲は相応しいのか!?(笑)

リック先生…いきなりピックをビュンビュン飛ばしてます!



   <Cheap Trickと日本と武道館について>
  日本の人たちが他の国に先駆けてCheap Trickを認めてくれたから今の僕たちがあるんだ。1st、2nd、3rdと日本でのセールスは上昇し続け、「at Budokan」でCheap Trickサウンドの"本質"といったものを見つけることができた。

Cheap Trick以前にもBeatlesがプレイしたり、ボブ・ディランが武道館のライヴ・アルバムを出したりしているけど、"Cheap Trickが武道館を有名にし、武道館がCheap Trickを有名にした"んだよ。


   <2007年の"Recording Academy Honors"受賞について>
  名誉なことだよ。あのグラミー賞(受賞した)アーティストKanye Westと一緒に受賞したんだからね。

  通訳のお姉さん(※J-WaveのDJの方だそうです。名前失念してしまいました)が訳している間にも、時に机のリバウンドを駆使し(笑)ビュンビュンとピックを放り続けるリック…

酒井「(ピック投げは)1日どのくらい練習しているんですか?」  

「3時間!」


 酒井「それじゃ、ギター練習するより長いですね(笑)」

 「いや、(ギターは)練習しない!」(会場笑)  去年、Beatlesの『sgt.Peppers~』を再現するライヴを演ったんだけど(8月のHollywood Ballのショウのこと)、この準備の為に1967年以来はじめてギターを練習したね」


  <楽器をはじめた頃のこと>
  最初にプレイしたのはドラムだった。レッスンを受けた楽器はドラムが最初で最後だね。最初に組んだバンドのギタリストが良くなかったので、僕がギタリストに移った。両親が二人ともオペラ歌手だったせいか、音感が良くて"Peter Gunns Theme"とか~ドドドド・ドドドド(と口ずさむ)  後に"On Top Of The World"のイントロのヒントになるんだけど~とか楽に耳コピできたよ。


  <1960年代>
  最初に聞いた音楽はブルーズだった。その後にBeatlesに出会って、地元のラジオ曲でジミ・ヘンドリックスの曲を聴いて衝撃を受けて、母親に女性の裸が載ったジャケットのアルバム(「Electric Ladyland」)を買ってきてもらったんだけど、母は恥ずかしい思いをしたろうな(笑)  
 

  <1970年代>
  1970年代中期はディスコ・ミュージック全盛で(難しい時代だった)。でも、僕はダンスができないし(笑)あくまでロック・バンドだ、という気概で活動していた。すると、70年代後期に反動(backlash)が起こってチャート上位にBee Geesの「Saturday Night Fever」とCheap Trickの「at Budokan」が一緒に顔を出すような状況になった。でも、今Bee Geesはどこかへいってしまったけど、僕らはまだここにいる(拍手)


  <ギターについて>
  1978年に初来日した時、雑誌(音楽専科)の企画でギター・デザインのコンテストを行って、当選したギターをグレコに頼んで作ってもらった。エディ・ヴァン・ヘイレンが出てくるより前だけど、もうギターのボディにデザインをしていたよ。今ならフォトショップですぐ作れるだろうけど、当時はなかったからチェックのデザインをつくるのに3M(マスキングテープ)をひとつひとつボディに貼って、上からスプレーして模様を作ったんだ。

  今所有しているギターは500本(驚)  あっ、もう1本あったか(笑・といって、後ろに置いてあったギターを取り出す)  ツアーに必ず持っていくのは5ネック・ギター3本と、ヘイマーのDream Policeのギター。

  ポール・マッカートニーが持っている、世界に3本しかない左利き用のレスポールは、僕が実はあげたんだ。まだお金払ってもらってないけどね(笑)  (ポールは前夫人の慰謝料で大変だろうけど)彼女にお金払う前に、僕にギター代払って欲しいな(笑)


  <レコーディングについて>
  まずリハーサルをしっかりやるね。リハーサルをしながら、曲の良いところ、悪いところを見極める。最近は、マッキントッシュも(曲作りに)良く活用するね。バーニーのドラム・トラックはだいたい3日で録り終えるんだけど、彼が満足して帰ると僕らも嬉しい(笑)


  <4/24・武道館公演について>
  さっきも話したように、Cheap Trickにとって重要なアルバムである「at Budokan」からはたくさんやるし…初来日公演では"Dream Police"演ったっけ? え、演ってない?  "Dream Police"も演るだろうし、とにかく長いショウになるよ!

 
  ここで、酒井先生が今度の武道館でもこの盛り上がりが見られるように…と、初来日時の"Surrender"の映像をスクリーンに流しました。大写しになった当時の自分を見て、恥ずかしそうに頭を抱えるリック!  

「あの時に比べると大分(体形が)大きくなったな!(笑)  それはともかく、ギターはかなり上手くなったよ」 


  <音楽と人生>
  僕はバカ過ぎて、ロックするのを止められない(Too dumb to quit)んだよ(真顔で)  音楽キャリアの最後にプレイしたい曲? そうだな…長い曲をプレイしたいね。凄く長~い曲を(笑)
 
  人に押し付けられて作るのでなく、音楽が好きだから今まで続けてこれたんだ。音楽業界でどんな仕事につくにせよ、大事なのは自分の仕事を好きになること。好きなことを続けるのが重要だね。1stアルバム(の"Daddy Should Have Stayed In High School")で、「俺は30才だけど、16才の気分」って歌ってたけど、今59才の僕は、17才の気分でプレイしてるよ!


  その後、生徒さん、ファンからのリックへの質問コーナーがあり、全員でリックを囲み記念撮影したあとイベント…じゃなかった講義は終了。更にリックは10分ほど残ってファンにもみくちゃになりながら、即席のサイン会も行ってくれました(私は、残念ながらもらえませんでした)。尊敬するリックのユーモア溢れる話を目の前で聞き、また優しさに触れることができて夢のようでした。東放学園の先生、スタッフ、関係者の皆様。貴重な体験をさせて頂きどうも有難うございました!
  

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☆参加者に配布された、入場券代わりのバックステージ・パス

 

 

【来日公演1999】Live at Nakano Sun-Plaza 10/15/1999

□■回想メモ■□
ライブアルバム「Music For Hangovers」を従えての1999年の来日公演。セットリストは既出曲ばかりでしたが、オープニングでI Want You To Want Meを演奏したり、ポール・ギルバートがゲストで登場したり、見(聴き)どころは多かったです。これが恐らく初めて書いたCheap Trickのライブリポート。あちこち修正しました。

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もしかしたら新曲もやってくれるかな…との期待もあったが、最新作「Music For Hangovers」がライヴ・アルバムということもあり、やはりセット・リストに組みこまれた曲は既にリリ-スされた曲ばかり。また、今日はショ-の時間が比較的短い(80分前後)ので、終演後には一部の客からもっとやってほしいと不満の声も聞かれた。

バンド結成から25年、「At Budokan」リリ-ス20周年を記念して何か特別な演出があったかといったら…何もない。(ポ-ル・ギルバ-トの飛び入りという嬉しいハプニングはあったけれど) 

かといってライヴがつまらなかったといえば決してそんなことはない。Cheap Trickの多様性が80分・18曲の中に凝縮された、内容の濃いライヴだった。確かに、彼らは何も変っていない。普段通りシンプルなセットで、控えめな演出で、堅実な演奏で、良い曲をパワフルに、ラウドに、時に静かに、そして楽しく聴かせてくれるリック、ロビン、バ-ニ-。"いつもの"Cheap Trickがそこにいた。少なくとも、私はそれで十分満足だった。

いきなり"I Want You Want Me"で始まるという意表を突いたオ-プニングに、観客は沸き返る。"初期バ-ジョン"のアレンジを取り入れ、スピ-ド感が増しているので1曲めに演奏されても特に違和感はない。

"Come On, Come On" "Clock Strikes Ten"と、2ndアルバムから3曲連発し、リックの「今日は『Music For Hangovers』の曲をたくさんプレイするよ」というMCを挟み、"I Can't Take It" "He's A Whore"と続く。ここまでの流れはほんとうにあっという間で、コンパクトでキャッチ-な曲が矢継ぎ早に繰り出され、とにかくテンポが良い。

特にロビン作曲の"I Can't Take It"は、7年前に会場も同じ、ここサンプラザで披露された時はまったくといっていいほど反応がなかったのだが、今回は驚くほど受けており、見事に観客の熱気を持続させることに成功した。

そしてその熱気はスペシャル・ゲスト、ポ-ル・ギルバ-トの登場でさらに高まる。ポ-ルは、トムの歌う"I Know What I Want"でギタ-を弾き、コ-ラスをとった。私の席が後ろの方だった為、ポ-ルの表情までは見る事ができなかったのは残念だ。

唯一疑問に残ったのが「Cheap Trick」(1996)からの選曲。正直なところ、前回の来日でもプレイした"Wrong All Along" "It All Comes Back To You"よりは、"Carnival Game" "Say Goodbye"あたりが聴きたかった。ただ、パンキッシュな"Wrong All Along"は"Clock Strikes Ten" "Never Had A Lot To Lose"などと同様にライヴ向きの曲であることは確かで、実際にオ-ディエンスの反応も上々だった。

13日の渋谷公会堂公演ではプレイされた名バラ-ド"Take Me To The Top"がカットされたのも実に残念。しかし、ロビンの素晴らしくエモ-ショナルなヴォ-カルに圧倒される"Ghost Town" 久々にライヴで聴く"The Flame"、そしてCheap Trickのメロウ・サイドを代表する名曲中の名曲"Didn't Know I Had It"までやってくれれば、もう言うことはない。

"Southern Girls" "Surrender"と続き、大盛り上りのまま本編は終了。アンコ-ルは当然"Voices" に"Dream Police"、あとは"Auf Wiedersehen"やって終りだな~とちょっと油断していたら…。あれっ、このイントロは…このミディアム・テンポの重いリフは…? あっ、"The Ballad Of TV Violence"か! う~ん、これは予想していなかった。でも、この緊張感のある曲を最後に持ってきたのは良い選択だったと思う。'99年の今聴いても新しさを感じさせる、凄くク-ルな曲だ。やはり彼らのデビュ-作は、時代を先取りしていたんだなあ。ポップな曲、ヘヴィな曲、美しいバラ-ド。様々なタイプの曲を網羅した、構成のしっかりしたライヴだった。

 私の通っている英語学校のアメリカ人講師によれば、Cheap Trickは既にアメリカでは"Classic"なロックバンド(!)とみなされているそうだ。 ある意味ではそうなのかもしれない。しかしCheap Trickは未だにとても新鮮で、間違いなく"現在"を生きている。そう改めて実感した今回の来日公演だった。

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set list:
1.I Want You To Want Me
2.Come On, Come On
3.Clock Strikes Ten
4.I Can't Take It
5.He's A Whore
6.I Know What I Want
7.If You Want My Love
8.Never Had A Lot to Lose
9.Ghost Town
10.It All Comes Back To You
11.The Flame
12.Didn't Know I Had It
13.Southern Girls
14.Surrender
encore:
15.Voices
16.Dream Police
17.The Ballad of T.V. Violence (I'm Not The Only Boy)
18.Goodnight Now

【来日公演2018】live at Zepp Tokyo 10/11

  2018年10月11日 Zepp Tokyo

  初来日と同じ、4月に予定された「at Budokan」リリース40周年記念のライヴがリックの体調不良により残念ながら中止に。最新オリジナル・アルバム「We're All Alright!」のリリースからは1年以上が経過し、既に年末か来年初めのニューアルバムのリリースがアナウンスされている、いってみればイベントとイベントの"狭間"といえる時期の来日。会場も収容人数2700人のZepp Tokyoに変更、大幅に規模を縮小しながらも開催された1日限りの来日公演は、ひとえに記念すべき年に日本でライブを行いたいという、バンドの熱意、日本のファンに対する愛情が実現させたものだった。

  開演時間を5分ほど過ぎた頃、照明が落とされ「Ladies and gentleman.Boys and girls.Please welcome to the stage The f**kin' rock band you ever seen」のアナウンスと共にメンバーがステージに登場した。代表曲をコラージュしたお馴染みのイントロダクションのBGMが好きなのでちょっと残念ではあったのだが、この不意討ち的なスタートは新鮮だった。10年前の「at Budokan」リリース30周年記念の武道館公演では、開演前に過去の一連のプロモーション・ビデオをスクリーンで流すという演出があったが、それとは対照的なスピーディーなオープニングだ。観客は大歓声でバンドを迎えた。

  1曲めは勿論"Hello There" 私はやや下手側前方にいたので、まず目に入ったのが黒のスーツ姿のリック。顔色も良く元気そう。良かった。最初のギター・リフ1音を聴いただけで、ああ、リックのギターだ。Cheap Trickの音だと感激してしまった。そして、上手に目を移すと白いスーツ姿のロビンJr.テイラーがギターを弾いているのが確認できた。春にリックが体調を崩しツアーを離れた際、リックのギター・テックのラリーさん(残念ながら先月亡くなられました)と共に代役としてバンドに加入。一時的なサポートかと思いきや、そのまま残り、ずっとバンドを支え続けている。テイラーは1993年生まれの25才とのこと。奇しくも、初来日の時のロビンと同じ年齢なのだ。ステージ後方でスポットライトこそ浴びてないいものの、ダックスより更にひとまわり若いテイラーの存在が今のCheap Trickに新鮮な印象を与えている。

  "Hello There"から間髪いれず"Come On,Come On" そして"Lookout"から"Big Eyes"へ。この流れに殆どの観客はオッと思ったのではないか。そう、ここまでの曲順はオリジナル「at Budokan」のA面収録曲と全く同じなのだ。もしかしたらアルバム全曲完全再現か…?と。しかし、A面のラストを飾った"Need Your Love"は演奏されず、同アルバムのB面に収録されたファッツ・ドミノのカヴァー"Ain't That A Shame"へ繋がれた。これまでは、必ずロビンがギターを弾きながら歌ったこの曲。エンディングでメンバーがワンフレーズずつ弾くパートは、ロビンの代わりにテイラーが担当した。ロビンの声がいつも以上に出ていたように感じたのは、体調の良さだけでなくヴォーカルに専念したのも大きそうだ。

  "Ain't That A Shame"のエンディングにパワフルなドラムスのリフが重なり、一気に"On Top Of The World"に突入。このハッとさせるスピーディーな展開も、ロビンがヴォーカルに専念していることが寄与したことが明らかだ。お馴染みの黄色いヘイマーのギターに持ちかえたリックがシャープなリフを繰り出し、疾走感とドラマ性を兼ね備えたこの曲をグイグイとリードしていく。ここまでで演奏されたのは、全て70年代の代表曲とヒット曲のみ。目立ったMCも演出もなし。それでも、これだけの新鮮味とスリルを感じられるのはテイラーが加入したことによる役割分担のバランスの変化と、構成の妙。そして今のバンドの好調さ故だろう。

  それにしても、メンバー全員コンディションが良さそうだ。2016年の来日では名古屋公演で見れた、黒の"Dream Police"キャップに黒のTシャツとジャケット姿のロビン、帽子を目深に被ったトム。私の位置からは姿がよく確認できなかったのだが、これでCheap Trickのメンバーとして3回目の来日となるダックス、そしてリック。バンドのタイト且つエネルギッシュな演奏に、ファンも熱狂的な歓声で応えている。ここで初めて80年代の曲が登場。リックの「もし歌詞を知っていたら歌ってくれ。もし歌詞を知らなかったら大声で歌ってくれ!」というMCが出たら、そう"If You Want My Love"だ。優しいメロディを持ったロッカ・バラードの名曲が場内を包む。「ドウモアリガト」とリックが日本語で礼を言い、骨太なリフを刻み始めた。アルバム「We're All Alright!」のオープニング曲"You Got It Going On"が再びテンションを上昇させる。全く年齢を感じさせない、バンド史上最高といってよいパワフルなアルバムのカラーを反映したこの曲は、ライヴでも鮮烈な印象を残してくれた。ここでもテイラーはギターにコーラスにと大活躍!

  「気分はどうだい?」とリックが観客に問いかけ、ロビンを紹介する。再び時代を遡りアルバム「Dream Police」収録の名バラード"Voices" ロビンの艶のあるヴォーカルが何時にもまして素晴らしい。ふと周りを見渡すと、何人もの女性ファンが涙を流していた。

  ここで初めてロビンがMC 「次の曲は皆で歌って欲しいんだ。『オッ、オ、オー!』と言うだけだよ」1980年代を代表するライヴ・フェイバリット"Never Had A Lot To Lose"  コーラス・パートでは、会場全体が割れんばかりの大合唱が起こった。

  「初来日の時は俺は5才だった。今は25才だよ」というリックのジョーク(笑)から、記念すべき1stアルバムのオープニング曲"Elo Kiddies" 40年経った今聴いても新鮮で、新奇さを備えた独特のリズム・パターンとギター・リフが更にテンションを上昇させる。続けて、同じく1stアルバムから"Oh Candy" Cheap Trickでしか有り得ない、仄かな哀愁を持ったメロディが染みるロック・チューンが、場内の空気を一転させた。

  「君が今25才だと、僕は20才ということになるな」とロビンが先のリックのジョークに続けると、リックが「いや、君は125才だろ(笑)」と返す。ジョン・レノンの「Imagine」(1971)収録の"Gimme Some Truth"("Give Me Some Truth")は、バンドからアナウンスがあったように来るニューアルバムに収録予定のカヴァー曲。オリジナル・バージョンに硬質なギター・リフ/ソロを加えた、骨太なCheap Trick流アレンジが秀逸だ。Cheap Trickのオリジナル曲を歌う時とは違う、言葉を一つ一つ吐き出すように歌うロビンの歌唱、そして後半のシャウト気味のヴォーカルが印象的だった。

  続いてジョージ・マーティン・プロデュースの「All Shook Up」より、近年ライヴで登場することが多くなった"Baby Loves To Rock" シングルカット曲でも、ヒット曲でもないストレートなロック・チューンなのだが、ライヴにおけるメンバーの表現力、スキルが良く伺える曲の1曲といえるだろう。私ははじめて生で聴いたのだが、体の芯まで響くようなトムの重いベースが心地良かった。

  再びリックのMC。「次の曲はアメリカでは18週連続チャートの1位をとったんだが、日本では…笑(と、親指を下に向ける)」場内は笑いに包まれた。既にツアーでセットリストのレギュラーになっている"The Summer Looks Good On You"は、プロモーションビデオも作られた新曲。ポップなメロディ、キャッチーなコーラス・ハーモニーがCheap Trickならではの魅力に溢れた名曲であり、ここでもテイラーのサイドギターとヴォーカルが大きな力になっていた。

  トムがリード・ヴォーカルを担当する"I Know What I Want"は、Cheap Trickの数多い楽曲の中で決して人気上位にくる曲ではないけれども、シンプルでダイレクトなギター・リフと、一緒に歌わずにはいられないキャッチーなコーラスが配されたとてもライヴ向けの曲だ。生で聴いて、この曲の魅力を再確認したファンも多いのではないだろうか?

  驚かされたのがこの後の展開。胸の奥をざわつかせる、陰りのあるフレーズを紡ぐトムのベース・ソロが導くのは"Auf Wiedersehen"…と思いきや、飛び出したのが何とVelvet Undergroundのカヴァー"Waiting For The Man"!トムのリード・ヴォーカル曲が2曲、しかも続けて演奏されるのは非常に珍しい。(ライヴ後に気付いたのだが、これはこの日の特殊なセットリストの関係上、ロビンの喉を休ませる理由もあったかもしれない) 近年、ライヴの定番曲としてプレイされているこの曲では、前回の来日公演と同様にロビンがステージ下手でアコースティック・ギターを弾きサポート。トムのヴォーカルが以前より伸びやかに響いているように感じられた。後半のリックのボトルネックによるギター・ソロも素晴らしかった。

  この後、終盤は代表曲中の代表曲が続けて繰り出される圧巻の展開。全米no.1ヒット"The Flame" ロビンのヴォーカルの歌唱とアコースティック・ギターの響きは、これまで生で聴いた中でもベストといえる美しさだった。"The Flame"の時、私の位置からはテイラーの姿が見えなくなったのだが、彼はこの曲ではステージ奥でキーボードとコーラス・ハーモニーでロビンをサポートしていた。"I Want You To Want Me"では、ハイテンションが続いていた会場の熱気が更に高まり、"Cryin' Cryin'"のコールとともに突き上げられる観客の腕でステージが見えなくなるほど。会場は残念ながら武道館ではなくなったけれど、この盛り上がりはきっと初来日の時と比べても遜色なかったのではないかな?! 

  "Dream Police"はオリジナル・バージョンのバン・Eのドラムスが特徴的で、楽曲のカラーを決定付けていたが、ダックスの重厚なサウンドが今やすっかりフィットしていると感じる。前回、前々回の来日公演で演奏された"Gonna Raise Hell"でのドラム・ソロのように、今回はダックスの目立った見せ場こそなかったが、今のCheap Trickの推進力になっているのはダックスのタイトなドラミングであるのは明らかだ。中間部のギター・ソロのパートで、クルーが半身のロビンの肩にDream Policeのジャケットをかける演出はなくなっていた。

  凄い盛り上がりのうちに"Dream Police"は終了「Thank you! Thank you! Thank you! 僕らがCheap Trick。忘れないでくれよ」というロビンの言葉に本編終了を悟るが、メンバーはステージから去らず。リックの「ドラムスはダックス・ニールセン!彼が、あと数曲プレイできると言ってるんだ」とMCした後、いきなり"Clock Strikes Ten"に突入したのには驚嘆した。この時点で、演奏した曲数は21曲と、既に通常のロングセットの上限に達していたのだが、バンドはペースを緩めることなくこのシンプル&ダイレクトなロック・チューンで猛然と突っ走った。ロビンの喉もここへきても全く疲れを感じさせることなく、声がしっかりと出ている。

  パワフルな演奏に呼応して、激しい盛り上がりで応える観客(フロアー前方の観客は皆ジャンプしていた) その勢いを保ったまま、バンドは更にヘヴィな、これも70年代のCheap Trickを代表する名曲である"Auf Wiedersehen"で畳み掛けた。ずしりと響く、トムの12弦ベースの荘厳なサウンドCheap Trickならではの持ち味だ。それにしても、ライヴ終盤でより加速していくこのパワフルさ!長年Cheap Trickのライヴを見てきたが、呆気にとられてしまった。当然、ラストは永遠のロック・アンセム"Surrender" ヘヴィさ、ポップさ、キャッチーなメロディ、ユーモア・センスとCheap Trickの魅力が凝縮された名曲から"Goodnight Now"へと繋ぎ、満員の観客に別れを告げたバンドは、2時間に亘る楽しく、濃密なライヴを締めくくった。

近作からの曲は「We're All Alright!」収録の"You Got It Going On"と、"The Summer Looks Good On You"のみ。代表曲と、近年のバンドのライヴ・フェイバリット中心のセット・リストでありながら非常に新鮮で、インパクトのあるライヴだった。24曲というロングセットで、過去に殆ど記憶がない珍しい曲順と構成。アンコールをカットし曲間を詰めたスピーディな展開。装飾、小細工なしにありのままの自分達を出して楽しませる、というのがCheap Trickがデビュー以来徹底してきたことであるが、この日のライヴは日本のファンのために、40周年を祝うために特別に組まれたことがはっきりと伺える内容だったといえる。自然体で、さらりと凄みを見せつける…。世界屈指のライブ・バンドの力が遺憾なく発揮された素晴らしいパフォーマンスに、感動で震えが止まらなかった。


- set list - 
1.Hello There
2.Come On,Come On
3.Lookout
4.Big Eyes
5.Ain't That A Shame
6.On Top Of The World
7.If You Want My Love
8.You Got It Going On
9.Voices
10.Never Had A Lot To Lose
11.Elo Kiddies
12.Oh Candy
13.Gimme Some Truth
14.Baby Loves To Rock
15.The Summer Looks Good On You
16.I Know What I Want
17.Waiting For The Man
18.The Flame
19.I Want You To Want Me
20.Dream Police
21.Clock Strikes Ten
22.Auf Wiedersehen
23.Surrender
24.Goodnight Now

【来日公演2016】Classic Rock Award 2016 at Ryogoku Kokugikan 11/11 & live at Studio Coast,Shinkiba 11/16

□■回想メモ■□
ロックの殿堂入りという勲章と、ニュー・アルバム「Bang Zoom Crazy...Hello」を従えての3年ぶりの来日公演。大物ミュージシャンを多数迎え、両国国技館で開催されたクラシック・ロック・アワードでのパフォーマンスと、名古屋、大阪、東京の3都市で行われた単独公演で元気な姿を見せてくれました。

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Cheap Trickは自身の音楽スタイルに、そして活動に確固たる信念を持っているバンドで、それはバンド結成以来揺るぎない。可能な限りツアーを続け、合間にアルバムの制作やプロモーションを行う。このローテーションを休まず続けてきた。

「40年を超えるキャリアで5000回のライヴを行い、そのパフォーマンスは更に力強さを増している」ロックの殿堂式典でのキッド・ロックによる、ライヴ・バンドとしてのCheap Trickを讃えるスピーチもまだ記憶に新しいところだ。

そして、2016年も走り続けてきたCheap Trickが3年ぶりに待望の来日を果たした。まず、英国「Classic Rock Magazine」主催のクラシック・ロック・アワードの第1弾の出演者として発表がなされ、その後大阪、名古屋、大阪での単独公演3公演が告知された。私は、今回クラシック・ロック・アワードと東京・新木場スタジオコーストでの単独公演を観ることができた。

両国国技館で行われた「クラシック・ロック・アワード」 出演者のジミー・ペイジが演奏を行わず物議を醸した、日本初開催となるこのイベントは、結局4時間近くに及ぶ長丁場になったのだが、Cheap Trickはオープニング・セレモニーの後に最初の出演アーティストとして登場した。

2016年度の"Showmen Of The Year"を受賞したCheap Trickは、司会のデイヴ・ムステイン(Megadeth)に迎えられ壇上へ。リックは「また武道館へ戻って来れて嬉しい」とジョークを言い笑わせる。受賞者のスピーチの後のライヴ演奏。何と4曲も演ってくれたのには驚いた。

[Classic Rock Award set list]
1.I Want You To Want Me
2.When I Wake Up Tomorrow
3.Dream Police
4.Surrender


単独公演の前の試金石的な短時間のライヴ。果たしてバンドの状態はどうだろうかと少し冷静に見たが、非常に調子が良いように感じた。ロックのライヴを全く想定していないであろう、国技館という特殊なホールでも、Cheap Trickの音のクオリティの高さは変わらない。演奏も、秋のアメリカのツアーでの好調さを維持しているようで実に切れ味が良い。

特にロビン(珍しい、フード付きジャケットを着て登場)の声の伸び、張りが素晴らしく、2013年の来日よりも良いように思えた。日本初披露の新曲"When I Wake Up Tomorrow"を含む、代表曲4曲を一気に演奏したCheap Trickは、短時間で現役バンドとしての凄みを見せつけた。

ダックス・ニールセン加入以降、セットリストを公演毎に大きく入れ換え、時に長らく演奏していなかったレアな曲も組み込んだライヴを行っているCheap Trickであるが、昨年あたりからライヴにおける選曲のサプライズがより多くなっている気がしていた。

面白いことに、Cheap Trickは昔ツアーでキーボードをサポートにつけていた時代よりも、ライヴにおける選曲の幅が広がり、自由度が増しているのだ。ライヴの多彩さに加え、世界屈指のライヴ・バンドとしての演奏の安定感。今年は前述したロックの殿堂入りに加え、「Bang, Zoom, Crazy...Hello」(以下BZCH)という強力なアルバムをリリースし、これまでになく追い風に乗っている最高の状態のバンドが見れると、期待は膨らんでいた。

しかし、初日11/13の大阪ピロティ・ホールでのセットリストを見たときはあれっ?と思ってしまった。新曲2曲とトムが歌う"Waiting For The Man"を除くと、殆どが前回の来日公演でもプレイされた曲。カヴァー曲が多く、基本的な構成は来日前のアメリカツアーで行っていたセットリストとほぼ同じ。ライヴを見たお友達からは、ライヴとても盛り上がって良かったと聞いて嬉しかったのだが、日本公演ならではの選曲はないのかな?と思ってしまったのも正直なところだった。

ところが…14日の名古屋のセットリスト見て驚愕。"Heart On The Line"から"Hello There"へ繋ぐオープニングから、以降の選曲も大半が大阪のそれとは入れ替わっているではないか!たった3回の単独公演で、まさかオープニングも変えてしまうとは。実際に名古屋のライヴを見たわけではないのだが、今のバンドと、バンドの周囲の状態の良さが伺え嫌がおうにも東京公演への期待値が上がった。そして、16日新木場スタジオコーストでの最終公演。

ロビンは帽子、スーツの上下と全身白できめた衣装で登場!収容人数2400人のスタジオコーストは、ほぼ満員の観客で埋まっていた。ライヴ開始前から感じる、これまでのCheap Trickのライヴで感じたことのないファンのテンションの高さ。

オープニングSEが終わり、照明が消えると同時にフロアのファンがどっとステージ前に押し寄せた。危ない!前後左右から押されながら、何とか足場を確保する私。1曲目は"Hello There"だ。「BZCH」収録曲の中でも"Heart On The Line"が特にライヴで聴きたい1曲だった私は、今日は無しかと少々ガッカリしたのだが、間髪入れず続いた"Long Time No See Ya"に驚きで思わず声を上げてしまった。「BZCH」収録の新曲の中で、最も早くからライヴで披露されていたが、アルバムのリリース以降演奏されることが少なくなり、最近はついにセットリストから完全に消えてしまったこの曲。いきなりプレイされた"Long Time No See Ya"で「今日のライヴは凄いことになる!」と予感したのは私だけではないと思う。

そして、果たせるかな序盤からサプライズが続いた。一気に1stアルバムまで時代を遡り"He's A Whore" そして同じく1stより"Hot Love"長らく、オフィシャル・サイトで発表されるライヴのセットリストをチェックしているが、こういった序盤の曲の流れ、選曲は記憶にない。名古屋公演では1stアルバムを代表する"ヘヴィ" "重厚"系の2曲。"The Ballad Of TV Violence"と"Taxman Mr.Thief"をプレイしていたが、対照的にこの日は軽快でノリの良いHRチューンを2曲連発。この強力な掴みで一気にフロアに熱狂を生み出した。

続いたのは何と「Standing On The Edge」収録のスマッシュ・ヒット"Tonight It's You"!意外にもこれが日本でのライヴ初披露となる。2000年代に入ってから、頻度は少ないもののセット・リストに入るようになったこの曲は、これまでのライヴ・バージョンのような、ベースとドラムスによるドッドッドッという短いイントロダクションなしに、アルバムのバージョンに近いアレンジで演奏された。ロビンはレンジの広い歌メロをしっかり歌い上げ、楽器隊も曲の持つドラマチックさを完璧に再現。素晴らしかった。

ここでリックのMCが入る。クラシック・ロック・アワードで一緒になったジェフ・ベックについて「このギターはジェフ・ベックに借りたものなんだ。彼がここに居なくて助かった」 (笑)「次の曲はトッド・ラングレンがプロデュースしたアルバムから。ライヴはアルバムのバージョンよりベターだよ」とコメントし"Borderline"をスタート。2000年代初期からよくライヴでプレイされるようになり、近年更にセットリストに入る頻度が増えている"隠れた名曲"といって良い曲だ。Cheap Trickならではのポップ・センスが、ライヴではドライヴする重厚なリズム隊によってプラスαの魅力が加味されている。

「俺達がCheap Trickだ!皆に会えて嬉しいよ。次の曲は…『Lap Of Luxury』の曲だっけ?」とリックはロビンに確認。ロビンが「Woke Up With A Monster」だよ!と答える。Cheap Trick史上に残る名曲の1曲といえる"Didn't Know I Had It"は、この日プレイされた唯一の1990年代の曲になった。"Tonight It's You" "Borderline" "Didn't Know I Had It"と、皆セールス的には恵まれていなかった時期の曲ながら、いつの時代も常に良質のメロディを産み出してきたCheap Trickの創造力には改めて感嘆させられた。

再び時間は70年代まで遡り「Heaven Tonight」アルバムから"High Roller" 久々に聴けて嬉しかったのだが、「Heaven Tonight」なら何故もっとライヴ向きの"On Top Of The World" "Stiff Competition" 辺りを演らないんだろう?…と一瞬考えたものの、この日のこれまでの流れや、名古屋、大阪公演のセットリストを思い返していて気付いた。Cheap Trickは、今回の来日公演でライヴ毎に各時代の曲を満遍なくプレイし、歴史を総括すると同時に3公演全て体験することで完成するパズルを組み立てているのではないかと…。私は、今回単独公演は1公演のみの観戦だったが、これまで以上にCheap Trickの奥深さと引き出しの多さ、そしてメンバーの日本のファンに対する愛情を感じることができた。

「俺達ニューアルバムを出したって言ったっけ?」「今日が日本で最後のショウだ(泣き真似) 日本に最初に来てから40年経った。皆のこと愛してるよ」とリックがMCをして「BZCH」よりアルバムのリーダー・トラックになった"No Direction Home" キャッチーなコーラス・パートを一緒に歌い、手を挙げ盛り上がる観客を見て、日本のファンであることがちょっと誇らしくなった。海外でのライヴ映像を見ても、この曲でここまで盛り上がるのは見たことがない!

リック「次はリクエストをもらった曲だ。"Blood Red Lips"ここまで来ると、驚きを通り越してもう口あんぐりという感じだった。 夏場のアメリカのツアーで3回ほど演奏されたことがあるだけの新曲である。60〜70年代的なポップな歌メロを備えた名曲だが、コーラス・ハーモニーから始まる構成は決してライヴで演奏するのは(特にロビンは)簡単ではないだろう。ファンか関係者のリクエストとはいえ、この曲を臨機に応じてセットリストに組み込めるのが今のCheap Trickの凄さだと思う。演奏も素晴らしかった。

驚きは更に続く。前作「The Latest」から、サイケでガッツィーなHRチューン"Sick Man Of Europe" 「The Latest」の曲は今回は聴けないと思っていた。身体の芯まで響くようなグルーヴィーで重いドラムスとベース。空間を切り刻むような荒々しいギター・リフ。勿論、ロビンのシャウト・ヴォーカルもとても年齢を感じさせない強力なものだった。前回の来日公演を見れなかったファンにとっても良いプレゼントになったのではないだろうか?

ここで恒例の、トムが主役の時間。1996年の来日公演以来となるThe Velvet Undergroundのカヴァー"Waiting For The Man" トムは声が良く出ていたし、ベースプレイもクールだった!アコースティック・ギターでサポートしたロビンがステージ前方まで出て来てくれて、ロビンの表情が良く見えたのと、ロビンの繊細なギターの音がはっきり聴こえたのも嬉しかった。

全米no.1ヒット"The Flame" この美しいバラードは、かつてはバンドのライヴのレパートリーにおける"鬼っ子"的存在であったこともあったが、今ではメンバーにとっても、ファンにとっても最早好き嫌いを超えた存在になっているのではないだろうか?ロビンが1番の歌詞を間違えて歌ってしまったのはご愛敬。そのスイートでありながら力強くもあるヴォーカルは相変わらず素晴らしかった。

本編ラストは"I Want You To Want Me"と、"Dream Police"という鉄板の代表曲2連発。当然ファンの熱狂はこの日最高潮に達したが、ここまでフロアーのテンションが上がっているのを見たのは、私が知る限りでは2001年の横浜ベイホール公演以来という気がする(ヒートし過ぎて危ない場面も何度かあったが。事故が起こらず良かった!) 演奏も、ロビンのヴォーカルも全く衰えを見せぬまま、本編は終了。

アンコールに応え再びメンバーが登場。「本当にもっと聴きたいか?OK」リックのお約束のMCだ。「今日は至るところからファンが来てくれている。アメリカ、中国、そして…東京から(小声で)」これを演らずには終われない"Surrender"!会場が一体となって大盛り上がり。やっぱりCheap Trickのライヴは楽しい!

しかし、あれ…今日は"Never Had A Lot To Lose"演らなかったな?と思っているとダックスがドラムスを叩き始める。"Gonna Raise Hell"だ!私的に、特に聴きたかった曲の1曲。最近のセットリストでは"Need Your Love"を入れていることが多く、今回の来日では無いだろうと予想していただけに喜びが大きかった。多彩な表情を見せるリックのギター・ワーク、唸るトムのベース、ロビンの熱く激しいヴォーカル。そして、ライヴならではのダックスのドラム・ソロをフィーチュアしたこの長尺のヘヴィ・ロック曲には、HRバンドとしてのCheap Trickの真髄と、今を生きるメンバーの生きざまが封じ込められていたように思う。"Gonna Raise Hell"の余韻がまだ残るうちに、バンドは一気に"Goodnight Now"に突入。最後までハイ・テンションのまま約100分、全19曲のライヴを終えた。

2013年の来日公演同様、今回も「これが最後の来日かもしれない」と少し感傷的な気持ちも持ちつつ見たライヴであったが、終わってみればこれまで以上にパワフルで張りのあるパフォーマンスだった。セットリストの充実ぶりも言うまでもない。これが、世界屈指のワーキングバンドの凄さなのだろうか。Cheap Trickは、これからもきっと多くの楽しみをファンに与えてくれる。そんなポジティヴな思いしか浮かばない素晴らしいライヴだった。

[Shinkiba Studio Coast set list]
1.Hello There
2.Long Time No See Ya
3.He's A Whore
4.Hot Love
5.Tonight It's You
6.Borderline
7.Didn't Know I Had It
8.High Roller
9.I Can't Take It
10.No Direction Home
11.Blood Red Lips
12.Sick Man Of Europe
13.Waitin' For The Man
14.The Flame
15.I Want You To Want Me 
16.Dream Police
17.Surrender
18.Gonna Raise Hell
19.Goodnight Now

【来日公演2013】Live at O-East, Shibuya 8/8 & at Summer Sonic Festival 8/10

□■回想メモ■□

まさに待望といえる5年ぶりの来日ツアーでした。しかも単独公演だけでなく、再びサマー・ソニックで観れるとは!

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「The Latest」という、Cheap Trick史上に残る傑作のツアーでも、来日公演は実現せず、前回の来日から5年の月日が流れた2013年。突如として発表されたサマー・ソニック出演のアナウンスには驚きを隠せなかった。ニュー・アルバムがリリースされた訳でなく、2008年のように「at武道館リリース30周年」というメモリアル的な何かがあった訳でもない。単に"サマソニベテラン枠"的な扱いで選ばれただけだったのかもしれないが、理由はともかくCheap Trickが再び日本の地を踏むという事実に胸が熱くなった。嬉しかった。
 
  一度、バンドの公式Facebookで発表されながら、何故かすぐ消去され、暫くしてから再び正式発表となった単独クラブツアーも正式決定。 1300人収容の東京O-East、900人収容の名古屋ダイヤモンド・ホールは、5年前の公演が武道館であることを考えると驚くべき小規模のサイズの箱であり、聞けば何とO-East公演はチケット発売開始20分足らずでソールドアウトしてしまったそうだ。
 
  2003年以来、10年ぶりとなるサマー・ソニック出演。ツアーを離れたバーニーに代わり、ダックス・ニールセンが参加した初めての、そして、2011年の東日本大震災以来、初の来日公演であった。
 
  オリジナル・メンバー3人。リック、ロビン、トムの年齢は気付くと皆60を超えていた。しかし、ステージ上の3人は何も変わっていなかった。いや、ステージ中央奥でドラムスを叩くダックスの存在感と音は、確かにCheap Trickサウンドに新生面を与えていたし、セット・リストもこれまでのツアーと大きく異なっていたけれども、彼らの根幹にある主張は全く揺るぎがなかった。ステージを見つめる自分の目から、気付くと涙がこぼれていた。変わってしまったのは自分の方かもしれない。Cheap Trickを聞いて、こんなに感情的になってしまうなんて。
 
  多くのお友達から、前日の名古屋公演が如何に素晴らしかったか話を聞いていたので、期待は大きかったのだが、この東京単独公演も素晴らしかった!


- set list -
1.Hello There
2.Elo Kiddies
3.Just Got Back
4.Ain't That A Shame
5.Come On, Come On
6.Taxman,Mr.Thief
7.On Top Of The World
8.Way Of The World
9.Southern Girls
10.Need Your Love
11.I Know What I Want
12.If You Want My Love
13.Stop This Game
14.Voices
15.Wrong All Along
16.I Want You To Want Me
17.He's A Whore
18.Dream Police
- encore -
19.California Man
20.Surrender
with Hot Chelle Rae
21.Gonna Raise Hell
22.Goodnight
 
  お馴染みになった開演前SE~70年代の日本の「天国の罠」のテレビ・コマーシャルでにやりとさせ、ホーマー・シンプソンの台詞("I prefer to listen to Cheap Trick")が入り、最後"Stop This Game"のコーダ部分で緊張感を煽り「Please welcome the best fucking rock band you've ever seen…Cheap Trick!」というアナウンスとともに一気に"Hello There"に突入する劇的なオープニング
 
  もう過去に何度となく聴いた"Hello There"のカッコよさに震えを覚える。生で見るダックスのプレイは、やはりバーニーのスタイルと全く異なっていたけれども、そのパワフルなサウンドは、老いてなおアグレッシブなCheap Trickサウンドに更にダイナミズムを加味していた。

  私は1階フロアー、3列目で見る幸運に恵まれた。正直、オープニングから高揚したまま無心でステージを見つめていた為あまり細かい分析はできないのだが、メンバー4人の存在感に最後まで圧倒されっぱなしだった。ロビンはシックな黒いスーツと帽子。トムはスタンドカラーのジャケット。リックはいつものようにビシッと黒のスーツできめていた。メンバー皆、年相応にルックスは枯れているけれど、ロビンのシャウト・ヴォーカルも、リック、トムのキレのあるプレイも衰えはなかった。リックのジャンプ力だけは、流石に高さがなくなってきている気がするけども (笑)

  ダックス加入以降の、セット・リストのバラエティの豊かさと、演奏時間の長時間化は、よく知られるところであるが、この東京、名古屋の単独2公演でも、両公演で被った曲は総演奏曲数の半数に満たない11曲。いかに今のCheap Trickがフレキシビリティに溢れているかを実感させた。それだけに、東京、名古屋どちらか一公演のみ参加されたファンの方は「あの曲も聴きたかった!」という気持ちも湧いてきたのではないかと思うが、この長い間日本でプレイしていない曲、初めて日本でプレイした曲を多数フィーチュアしたセット・リストには総じて満足された方が多いのではないだろうか?
 
  シンプルかつスピーディで、テンションを一気に高める~セットの中でアクセントとなる役割を果たすと思われた"Sick Man Of Europe"がプレイされず、Cheap Trick'97のレア曲"Wrong All Along"が登場したのはちょっと意外だったが、70年代の楽曲を中心に、Cheap Trickの多彩さが詰め込まれた2時間のライヴは、最後まで全く飽きさせない極上のロック・ショウだったいえる。
 
  10年以上ぶりに生で聴く曲が過半数で、90年代以降の曲が少なくても新鮮だったが、中でも感激したのは初めて生で聴く"Way Of The World" この壮大で美しいコーラス・ハーモニーを持つ名曲が今回の来日で披露されたのは、O-East公演のみ。運が良かった!
 
  Cheap Trickを代表する2曲の長尺曲~「Dream Police」アルバムで対をなす"Need Your Love"と"Gonna Raise Hell"が両者ともセットに組み込まれたのも、ダックスを擁した今の編成ならではの選曲といえるだろう。メロウで、展開美をもつ"Need Your Love"でのロビンの表現力は相変わらず素晴らしかったし、ダックスの視覚的にもサウンド面でも鮮やかなドラム・ソロを盛り込んだ"Gonna Raise Hell"は、これまでの同曲の持つ荘厳さとアグレッションというイメージにエンターテインメント性が加味され、新たな魅力を発していた。
 
  アンコールでは、同時期にサマー・ソニック出演の為来日中だったHot Chelle Raeのライアン・フォリース(vo)とナッシュ・オーバーストリート(g)が"Surrender"で飛び入り出演。親子のような年齢差をもつ両者の共演は微笑ましかった。(Hot Chelle Raeは、この日同様、自身のサマソニでのステージでもCheap TrickのTシャツを着て演奏)
  
  さて、そのサマー・ソニックでも熱演を見せてくれたCheap Trick 東京、大阪とも1時間ちょっとの演奏時間と、単独の役半分のにまとめられたセット・リストであったが、単なる"短縮バージョン"で終わらせないのが流石だ。特に奇抜なことをせずとも、変わった曲を演らずとも、パズル(楽曲)の組み合わせを自在に変えることによって、巨大アリーナ向けのテンションとショウの流れを生み出すことができるのだ。


- set list - 
1.Dream Police
2.Clock Strikes Ten
3.Gonna Raise Hell
4.California Man
5.Ain't That A Shame
6.If You Want My Love
7.That 70's Song
8.I Know What I Want
9.Need Your Love
10.I Want You To Want Me
11.Sick Man Of Europe
12.Surrender
13.Auf Wiedersehen
14.Goodnight Now
 
  サマー・ソニック東京のオープニングは、何といきなり"Dream Police"!最初は、当日撮影に入っていたWOWOWの放送向けの配慮かと思ったが、これは掴みのインパクトを狙った選曲と言ってよいだろう。マニアにはオッ!と意外性を与え、Cheap Trickを知らないファンは、キャッチー極まりないメロディで一気にCheap Trickの世界に引き込む。"Dream Police"でスタートするセット・リストは珍しいが、アルバム完全再現のショウだった「Dream Police Featuring Cheap Trick」を除くと、最初にダックスがバーニーの代役で入った2001年のツアーでも使われることがあった。間をおかず、シンプルで勢いのある"Clock Strikes Ten"で一気にテンションを沸点まで持っていき、ドラマティックな"Gonna Raise Hell"で空気をがらりと変える。既にここまでの3曲でCheap Trickの多様性が十分に表現されているのだ。

  2003年のサマー・ソニックでもプレイされた、大舞台ではかかせない"Ain't That A Shame"をはじめとする一連のヒット曲、代表曲の素晴らしさには改めて感銘を受けたが、驚いたのは"Gonna Raise Hell"のみならず"Need Your Love"までプレイされたことだ。単独公演ならまだしも、1時間ちょっとのセット・リストに長尺曲2曲を組み込んでくるとは。これは、今のバンドがいかに体力的に充実しているかの表れ、また、いかに「Dream Police」アルバムが強力なアルバムか、という表れとはいえないだろうか。因みに、今回の来日公演では「Dream Police」アルバム収録曲9曲中、実に7曲もプレイされている。クラシック曲をフィーチュアした一方で、終盤では最新作「The Latest」から、パワフル極まりないロック・チューン"Sick Man Of Europe"を披露。これぞ熟年のライヴ・バンドたる凄みを見せつけていた。

  Cheap Trickを生で見るのは最後かもしれない…という思いで臨んだ今回の来日公演。終わってみると、そのパフォーマンスの充実ぶり、ファンの熱いリアクションは、また日本で観れる、と期待できるに充分なものだったといえる。ロビンもMCで「これからはもっと頻繁に日本に来るよ」と言っていたね。近い将来の再会を期待して…リック、トム、ロビン、ダックス。有難う!待ってるよ!

【来日公演2008年】Cheap Trick at Budokan Again! - Live at 日本武道館 4/24/2008

□■回想メモ■□
初来日から30周年。1990年の来日公演以来、18年ぶりに日本武道館のステージに立ったCheap Trick このレポートを書いた時点では、バンドが日本のファンのために赤字で公演を行ったということは知りませんでした。利益なしで、バンドの熱意だけで行ったということは…。赤字なのに、ゲストにトッド・ハワースを呼んだのは…。

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  私が「at Budokan」のCDをはじめて聞いたのは、そのリリースから10年経った1988年のこと。当時、既にその歴史の重みを感じさせたこの偉大なアルバムは、更に20年の年を重ねた今でも鮮烈な印象を与える音を有している。

  リックの口からアルバム完全再現…と聞いた時は驚いた。オリジナル「at Budokan」でなく、「Budokan Complete」を完全再現したらそれは凄いことになりそうだが、そのCompleteのボリュームからして"Dream Police" "Voices"といった"必ず演奏しなければならない"曲の入る余地がなくなる。では、2部構成にして、1部でオリジナルの「at Budokan」完全再現、2部でそれ以外の代表曲をプレイしたら…などと、様々な想像を巡らせ、リックの「長いショウになる」という言葉も後押しして期待が大きく膨らんだ人は私だけではないはずだ。

  しかし、ファンならよくご存知のように、「at Budokan」のオリジナル版は、飽くまで日本のファンの為だけのギフトとして作られたものであって、バンドがプロデュースしたアルバムではない。日本のファンの音楽嗜好を反映させた"ポップな曲を集めた"アルバムである。曲数からすれば、セットに組み込みやすいオリジナル「At Budokan」フル演奏を考えてもおかしくない…いや、当初考えたからこそ"完全再現"という話が出てきたに違いないが、実際にリハーサルしてみて、メンバーがライヴの構成に"ぎこちなさ"を感じたとしても想像に難くない。当然のように、オリジナル「at Budokan」の曲順は、本来のCheap Trickのライヴの流れとは別物であるからだ。

  オープニングの"Hello There"から"Come On Come On"へとなだれ込み、やはりオリジナル「武道館」の再現なのか!と一瞬色めき立ったが、その期待は"Big Eyes" "California Man"と続く流れで早くも崩れることとなる。結論を先に言うと、この日のライヴは1988年以降の全ての来日公演の基本セット・リストを全て折衷したような、"いつもの"Cheap Trickのセット・リストだった。これ!という珍しい選曲もなし。スペシャル・ゲストの登場(サポートで、キーボーディストのトッド・ハワースがプレイしていたが、最後まで紹介されることはなかった)もなし。ショウ全体の長さも80分程度と、普段のセット・リストをそのまま武道館という会場に移行したような感じだった。

  特別なものが何もなかったというわけではない。オープニングで、ステージ全面に張られたスクリーンに過去のPVとライヴ映像("Oh Candy" "Speak Now Or Forever Hold Your Peace" "I Can't Take It" "You're All I Wanna Do" "Carnival Game")を流した演出は悪くなかったと思うし、全18曲中11曲が、1978年の武道館でもプレイされた曲と、「at 武道館」30周年を祝うだけの当時の"空気の再現"は随所で感じるとることができた。何より会場のスケールに負けないサウンドのダイナミズムと、プレイのタイトさには、流石生粋のライヴ・バンドと思わせる説得力があった。ロビンのヴォーカルも最後まで安定していたと思う。ショウの流れも実にスムースだった。つまりは、ひとつのライヴとして見て完成度が非常に高く、十分楽しめたということなのだ。

  勿論、プロモーターの宣伝内容、事前に読んだリックのメディアでのインタビューの言葉を受けるならセット・リストが"普通"であってはいけなかったのは確か。自分の予想と実際が大きく異なっていたのも確か。それでも、ああ、もう少し長く聴きたかった…と思いつつも、満足できたのは、ショウがスタートした時既に"武道館"という名前とその重みが頭から消え、ステージ~バンドと音だけに集中していたからかもしれない。常にCheap Trickらしい音を出し続けることの凄みを感じたからかもしれない。そして、いうまでもなく30年の時を経ても、全く輝きを失わない楽曲の素晴らしさもある。

  もし、これが最後のライヴだったら許さないけど、Cheap Trickの歴史はこれからまだずっと続くのだからね。

 

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set List:
1.Hello There
2.Come On, Come On
3.Big Eyes
4.California Man
5.If You Want My Love
6..Best Friend
7.Downed
8.I Want You To Want Me
9.I Know What I Want
10.Voices
11.High Roller
12.The Flame
13.That 70's Song
14.Surrender
- encore -
15.Dream Police
16.Auf Wiedersehen
17.Clock Strikes Ten
18.Goodnight Now