Cheap Trickのテキスト書庫

Cheap Trickファンサイトで過去に書いた文を加筆訂正して転載します

【来日公演2006年】Live at C.C.Lemon Hall, Shibuya 10/13/2006

□■回想メモ■□
アルバム「Rockford」のツアーに伴う来日公演。アルバムの内容が素晴らしかっただけに期待していたのですが、これまで観たCheap Trickの来日公演では最も印象が薄いライブになってしまいました。いまいちメリハリに欠けるセットリストに加え、残念だったのが音響面。Cheap Trickのライブで音の悪さがここまで気になったのは、この年の来日公演だけです。メンバーも気にしていたのでしょうか。ライブ中にリックが苛立った表情で、ピックをステージ袖(のクルー?)にぶち撒けていた姿が思い出されます。

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開演前のステージ上を横切ったスキンヘッドの男性。おや、どこかで見た顔…と思いきや何とそれはAnthraxのスコット・イアン(「Loud Park」出演の為来日中)の姿であった。これはアンコールの"Auf Wiedersehen"でゲストで出てくるのだろう…と開演前に普通に出てきて展開を「種明かし」するのはどうかとも思うが、この気負いの無いほのぼのした空気が何ともCheap Trickのライブらしくもあって。

定時を数分過ぎ、バン・Eを先頭にメンバーがぞろぞろとステージに登場。どうやら、サポート・キーボーディストはなしで、4人のみでプレイするようだ。オープニングの定番"Hello There"のパワフルなコードが場内に鳴り響く。リックの身のこなしは軽い。かなり調子は良さそうだ。トムはいつものようにやや伏し目がちの姿勢でクールに演奏する。ロビンは黒いロゴTシャツに…あのつばの広い帽子(正式名称が?)を被っている。せっかく6列目という恵まれた席なのにロビンの表情が見えない!

70年代からずっと、その冷ややかなヘヴィさを持ってライブの序盤を締める役割を果たしてきた"Big Eyes"への流れは、何度聴いてもそのカッコ良さにため息が出る。しかし、ここでちょっと違和感を覚えた私。音のバランスが妙に悪い…。各楽器、ロビンのヴォーカルの分離が悪く、更に、過去に観たCheap Trickのライブに比べて低音があまり効いていない(トムのベースはライヴを通してよく響いていたが) メロディ、そして何よりロビンのヴォーカルに迫力が感じられないのだ。

「次は1977年の曲、僕が生まれる前の曲だ。君達も生まれてないかもしれないけど」リックが、いつものジョークを挟んでデビュー・アルバムより"Oh Candy" この曲は音の悪さを気にせず楽しめた。ポップで切ないメロディ、身体に心地よく響くギター、そしてちょっぴり危うい雰囲気を備えたこの曲は、30年の時を経ても全く輝きを失わない永遠の傑作である。

「Rockford」アルバムのジャケットそのままの、メンバーのキャラクターがプリントされた真四角(!)のギターを肩にかけたリック「次は新作『Rockford』からの曲だ」"Welcome To The World"は本来であれば、アルバム同様オープニング曲に持ってきたいインパクトを持った曲だが、コーラス・ハーモニーから入るので音のバランスを調節するのが難しいのかもしれない。イントロにリックの16小節のギター・リフがつき、ライヴ用にアレンジされたこの新曲は、CD同様にスピーディ且つド・キャッチーなメロディがしっかり再現され、心地よい空気を運んできてくれた。

続いては80年代の代表曲の1曲"If You Want My Love" 何度聴いても飽きることのないシンプル、しかしフックに満ちた哀感あるメロディ。このような名曲をライヴ序盤に惜しげもなく持ってこれるのが今更ながらに凄い。観客の年齢層が高いせいか、会場内に振られる手の数は決して多くなかったが(私も遠慮してしまった・汗)

再び新作から、アルバムのリーダー・トラックとなった"Perfect Stranger" 「キャッチーここに極まれり」というCTのポップ・センスが凝縮された曲だ。80年代なら相当なヒット曲になっていたのではないだろうか。トムの軽やかなベース・ラインも実に心地よい。

「次はスローな曲。Em、CそしてAの3コードの曲だ」個人的に特に期待していた前作「Special One」収録の傑作"Best Friend" そのダークなギターのイントロと、ズブズブと沈み込むようなロビンの低音ヴォイスが今日一番の緊張感を会場に生んだ、が…ここでは今日の音響の悪さが如実に出てしまった。各インストゥルメンツはともかく、要であるロビンのヴォーカルの出音が低すぎる為、曲の持つダイナミズムが伝わってこないのだ。本来なら、曲を知らない人でも曲の世界にグイっと引き込むだけの強烈さを備えた曲の筈なのだが、2003年のサマー・ソニックで魅せたような背筋がぞくぞくするほどのエキサイトメントを得ることはできなかった。ロビンのヴォーカル・パート~後半、シャウトを連続するところ~が短く、エンディングをリックのギター・ソロで引っ張ったのも、元々そういうアレンジを考えていたのか、はたまた……?

しかし、続く"I Want You To Want Me"がそのもやもやを一気に吹き飛ばす! 会場内に起こる大きな歓声。閃きとアイディアが凝縮された、才気溢れるギター・アレンジを、ステージを大きく使ったパフォーマンスで魅せるリックは、まさにエンターテイナーと呼ぶにふさわしい。「12弦ベースの発明者、トム・ピーターソン!」 トムがリード・ヴォーカルをとるこの曲。決してメロディ・センス云々で語る曲ではないが、その芯の太い強靭なリズムと、思わず一緒に歌いたくなるキャッチーなコーラスが気分を高揚させる。

続く"Voices"もアルバム「Dream Police」より。「俺が世界で最も好きなシンガー」とのリックのお馴染みのMCでロビンが導かれ、あの優しく美しいメロディを歌う。2001年だったか、アコースティックな静かなアレンジでこの曲がプレイされるのを聞いたことがあるが、今日はいつものエレクトリック・バージョンで、大きく会場に音を響かせる。今では、昔のようにこの曲を聴いてほろりとすることも少なくなったが、その天才的としかいいようのないメロディの素晴らしさには何度聴いても圧倒させられる。

新作からポップな"If It Takes A Lifetime" ギターを置いたロビンが、例の上半身を大きく前後に揺するアクションをみせながらエモーショナルな歌を聞かせる。静かでメロディアスなヴァース、ダイナミックなサビ。ロビンの声の表情の変化がものをいう曲なのだが、音が悪いためにメロディにメリハリがなかったのが返す返すも残念だ。席が5列めだった為、力を込めて歌うロビンの表情が帽子のひさしの奥に伺えたのはラッキーだった。"If It Takes A Lifetime"はもっとライヴで輝かすことのできる曲の筈…と、曲の持つポテンシャルは十分に感じることができた。

そして本編終盤で披露されたのが、意外にもセット・リストに復活した全米No.1ヒット"The Flame"である。日本で最後にプレイされたのは1994年か。バーニーのドコン、ドコンという重いリズム、中盤でのリックのギター・ソロ。ドラマ性を意識したアレンジも全く以前のままである。"The Flame"昔はあまりにリピートし過ぎて、やや飽きを感じてしまったものだが、やはり素晴らしい曲だ。このCheap Trickにとっての鬼っこといえる存在である曲が再びプレイされるようになった理由は果たして…? 「Rockford」というアルバムのカラーを意識したものなのか。

意外といえば"That 70's Song"もちょっと驚かされる選曲であったが、この曲は意外なほど全体の流れの中に溶け込み、且つエンディング前をピリっと締める役割を果たしていた。タイトな各メンバーのプレイと、キャッチーなコーラスを叫ぶロビンの声に身体は自然に動き、一緒に歌っている自分に気付く。

"70's Song"のエンディングはそのままスムースに"Surrender"のイントロへ。1曲ごとにリックのイントロが挟まり、本来のCheap Trickと違いテンポの良さに欠ける…まったりした空気が支配的であった今日のライヴだが、本編最後はきっちりまとめた。あの重い5ネック・ギターを軽々操るリックをはじめ、各メンバーの動きの軽いこと! 老成という言葉とは無縁の、不変の美しさがそこにある。そして、100%ファンをエキサイトさせられるマスター・ピースを持っているアーティストの強さ。そして、それはアンコール最初の"Dream Police"にも通じる事。

最後は、トムのヘヴィなベース・ソロから、ハードなサウンドの中に儚さ、刹那さが秘められた"Auf Wiedersehen" 予告どおり? スコット・イアンがゲストで登場し、実にパワフルに、そして楽しそうにギターをかき鳴らす。スコットの笑顔とアグレッシブな動きに刺激されたかのように、リック、ロビン、トムも実に楽しそうにプレイしているのが見て取れた。スコットは"Goodnight Now"も一緒にプレイし、満面の笑顔で去っていった。

前述したように、この日のライヴは音響面、セットの構成をはじめ疑問の残る部分がいくつかあった。が、そのマイナス面はライヴ終盤の勢いと、最後にメンバー(とイアン)が見せてくれた笑顔が忘れさせてくれたといってよいだろう。そして、久しぶりにCheap Trickのライブを見て思ったのだ。もしかしたら、ポジティヴィティこそが永遠を与えてくれるのではないかということを。

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Set List:
1.Hello There
2.Big Eyes
3.Oh, Candy
4.Welcome To The World
5.If You Want My Love
6.Perfect Stranger
7.Best Friend
8.I Want You To Want Me
9.I Know What I Want
10.Voices
11.If It Takes A Lifetime
12.The Flame
13.That 70's Song
14.Surrender
encore
15.Dream Police
16.Auf Wiedersehen
17.Goodnight Now

【来日公演2003年・その2】live at Zepp Sendai 8/4 2003

□■回想メモ■□
2004年リリースの映像作品「From Tokyo To You」でフィーチュアされた、2003年8月4日、Zepp仙台における2部構成のライブ。8月2日のサマー・ソニックTokyoに参加した後、翌日は仕事。休みの関係で、夜行バスを利用し日帰りで仙台まで行くかなりのハードスケジュールでした。

オープニング・アクトのHound Dogのライブが終わった時点で、既に体力消耗してぐったり。フロアーに座り込んでいたのですが、オープニング曲の"Fan Club"のイントロを聴いて驚いて飛び起きたのを覚えています。

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それにしても、今回の来日公演は良い意味で裏切りの連続。サマー・ソニックでの、恐ろしいほどこのフェスティバル向けに練られたセット・リストの構成にも驚かされたが、この仙台公演の内容の凄さも大変なものだった。

1999年以降の来日公演のように「少し時間短いけど楽しかったな」という、特筆すべきハプニングはないが、必ず平均点以上の内容のライヴを見せてくれる、いつもの"安心感"を与えてくれるだけでなく、意外性に満ちたCheap Trickがそこにいたのだ。

オープニング・アクトを務めた地元仙台出身のロック・バンドHound Dogがステージを去った後、待たされる事なんと1時間!(セット・チェンジのトラブルか何かだったのだろうか?)元々仕事の疲れで倦怠感が酷かったのを、ビ-ルで何とかごまかしていた私も立っているのがだんだん辛くなってきて…。

開演前いつも流れているBGM~ボン・スコット時代のAC/DCの名曲のメドレーはついぞや"I Must Be Dreaming"に変わることなく終了し、「Ladies And Gentlemen,Please welcome Cheap Trick!」のMCとともにメンバーがぞろぞろとステージに登場。4人はなんと設置してあったストゥールに着席する。(会場内、最後尾にいた私にはステージ・セットが全く見えなかったのだ)ええっ!?と呆気にとられていると、ロビンから「今日はアコースティックで何曲かやるよ。」とまずひとこと。

ステージ下手側にテレキャスターを抱えたリック。ギブソンチェット・アトキンス・モデルを弾きながら歌うロビン。起立してブラシを叩くバー二ー。そして右側ではサマソニの時のもさっとしたTシャツ+麦藁帽姿とは一転、鮮やかなピンク色のシャツをラフに着こなしたトムが静かにべースを弾く。

1曲め、「ファンに捧げた曲」とのロビンの説明で始まったこの曲は‥‥何と"Fan Club"! まさかこんな曲が聴けるなんて!もうこの時点で口あんぐり。全く予想しない展開に、セット・リストのメモをとる手が思わず震える。(これは帰宅してから知ったことだが、この日と同様のアコースティック・セットで始まるショウが今年6月にStar Plazaで行われていたとのこと)

続いたのは、これも古い曲。1stアルバム収録の"Oh, Candy"だ。アコースティックになると更に強調される、この曲の持つ優れたメロディに浸りつつ、この曲をライヴで聞いたのは今日が初めてかも‥などと考えていたのだが、これはほんの序の口だった。

3曲目はリックの一風変わったギター・リフからスタート。"I Don't Love Here Anymore"だ!「Next Position Please」アルバム(1983)収録の隠れた名曲。こんな曲が聴けるとは。感激です。「Next Position Please」の音楽性は、Cheap Trickのポップ・センスを強調したつくりになっているので、アコースティックにアレンジされた音作りが自然にハマっている。

次は一気に時代が飛んで、アルバム「Cheap Trick'97」収録のバラード"It All Comes Back To You" シンプルながらも秀逸な曲構成に美しいメロディ。そして歌詞。「Cheap Trick'97」はかなり聴きこんでいるので、またこの曲はライヴで過去に数回体験しているので、それほど新鮮味はなかったが、何度聴いてもその泣きのメロディに心揺さぶられる。

5曲めも「Cheap Trick'97」から。アルバム中、特にキャッチーで明るい"Carnival Game"だ。アルバム・リリース当時、よくラジオ等のプロモーションでアコ-スティック・バージョンをプレイしていたので、メンバ-からすればお手のものといった感じだろうか。

アコースティック・セットの締めは"Lookout" 70年代から80年代へ、最近の曲から一気に昔の曲へ。様々な時代の曲を満遍なく織り交ぜながら、全く違和感を感じさせず自然な流れでバンドの長い歴史に触れてゆく。

ああ、もうこのままアコースティック・セットで最後までいってもいいな、などと一瞬思ったりもしたが(笑)途中リックから「エレクトリックも後でやるよ」とMCがあった通り、ここで機材を通常のセットにチェンジ。馴染みのあるコーダのイントロが‥‥おおっ、久々に来るのか"Stop This Game"と思わず身を乗り出すが、一度ステージから消えたメンバーが戻ってきてスタートさせたのは"Stop This Game"と同じく「All Shook Up 」アルバム収録の"Just Got Back"だった。しかし、この展開は悪くない!バー二ーの印象的なドラム・フィルに、小さな会場中が大歓声で反応する。

エレクトリック・セット2曲めは「In Color」アルバムから"Big Eyes" サマー・ソニックでは暴力的なまでに重いリフで、お祭り気分のスタジアムを緊張感で満たしたこの初期の名曲が再び会場中をひんやりとした空気で支配する。

なるほど、この後はサマソニのセット・リストをアレンジしたような内容でいくのかな…と思いきや、次にアナウンスされたのは「みんな一緒に歌ってくれ」の名曲"If You Want My Love" ここでCheap Trickサマソニと単独公演、全く異なるセットを用意してくれたことがわかり、嬉しさで再び心が高ぶってくる。

皆で左右に手を振り、会場が一体となったところで続いたのが最新作「Special One」から"Pop Drone" アメリカでは既にライヴでの準定番的な曲になりつつあるが、サマソニではプレイされなかったので日本では初披露になる。多分に70年代的な、重く太いギター・リフとリズム。気だるさを感じさせるロビンのヴォーカルが印象的なミドル・テンポの曲だが、サウンドはシャープで、独特のグルーヴ感が非常に心地よい。ルーツ・ロックは当然のこと、90年代以降のモダン・へヴィネス・サウンドも感覚としてしっかり身についているCheap Trickならではのへヴィ・ロックである。

その後は"My Obsession" "I Want You Want Me"と、Cheap Trickのメロディ・センスが存分に発揮された新旧のポップ・ロック・チューンの畳み掛け。改めて"My Obsession"は素晴らしい。既にCheap Trickの新たなクラシックとしての威光を放っている。是非これからもライヴの定番曲としてプレイし続けて欲しいものだ。

そして、待ってました!サマソニ同様、ライヴ中盤をピリッと締めたのは新曲"Best Friend"だ。暴力的なまでにヘヴィなリズムとギター。ロビンはスクリーマーとしての実力を遺憾なく見せつける。何度聴いても凄まじい! 今日既にロビンの体調はベストとはいえない状態だったようだが、それを全く感じさせなかったのは流石だ。

"Best Friend"と比較すると、続く"Never Had A Lot To Lose"はよりロビンのパフォーマーとしての側面をアピールする曲といってよいだろう。ロビンは体が一回り大きくなって、見かけは少し変わってしまったが、マイクを両手で持ち、体を前後に大きく揺すりながらオーディエンスにアピールする動きは昔と変わらない。いや、歌はむしろパワー・アップしているのではないかとさえ思える。「Lap Of Luxury」収録曲の中でも特にCheap Trickらしいメロディを持つこの曲。やはり非常にライヴ向きの曲で、個人的にはこの日最も気分が高揚した曲だった。

ここでリックがMCでオープニング・アクトのHound Dogについて触れ、その流れでエルヴィス・プレスリーのヒット曲でお馴染みの"Hound Dog"を即興でプレイ。(リックとトムはFuse時代にこの曲をシングルとしてリリースしている)

次に、これまた日本では初披露となる新曲"Words"が続いたが、この曲でのリックのギターのトーンの美しいこと。ブリッジからの盛り上がりも素晴らしい。デビュー27年めにして自分たちの過去の遺産に依存しない、こんなフレッシュな曲が書けるなんて。

再び時間を遡って、アルバム「In Color」から"Downed" Cheap Trickのライヴでは比較的ショウ終盤でプレイされることが多いこの曲。生で聴くとその構成の見事さと秀逸なメロディが一層引き立って聴こえる。それは続く新作からのタイトル・トラック"Special One"も同様。生ライブならではの音圧とトーンが与えるダイナミズムが、美しいメロディと相俟ってこちらの聴覚に絶妙の刺激を与えてくれるのだ。(この曲でリックの"日の丸"の模様が入ったギタ-登場)

そして、ライヴで映えるCheap Trickの曲といえば続く"Heaven Tonight"を忘れてはならない。演奏前にリックが、この曲で使用する楽器マンドセロについて一言二言解説を加える。アルバム・バージョンとは比べ物にならないほどの音の広がりに重厚さ。"Heaven Tonight"をライヴで聴くと、いつも音の網に捕らえられて別の世界に連れ去られるような不思議な感覚に襲われる。

ライヴも終盤。サマソニ同様ファッツ・ドミノのカヴァー"Ain't That A Shame"でひとしきり和み、本編のトリは勿論"Surrender"! リックの5ネック・ギター、これだけの至近距離で見たのは初めてだが凄い迫力。いや、もちろん5ネックがなくとも、体格のいいリックの存在感は圧倒的なのだが(笑) 

(恐らく日帰りで遠方からこられた方々なのでしょう。ショウ半ばで会場を後にする人が多かったので、私はライヴの後半は会場中央の柵の後ろでゆっくり見ることができました)

アンコールを求めるファンの声がやや小さかったように思えたが、これを私は責める気にはなれなかった。45分のオープニング・アクトの後、待ち時間が一時間弱。そして〜私もそうだが〜今回はこの仙台と翌々日の札幌が唯一の単独公演とあって、遠方から見に来ている人も多いはずなのだ。セットリストもここ数年の平均より30分近く(!)長く、ファンの疲労もかなり溜まっていただろう。しかし、そんなことはいってはいられない。

アンコ-ル1曲め。個人的に最も期待していた"Scent Of A Woman" サマソニでのロビンのタフな歌唱とステ-ジングが、まだ鮮明に残像として残っている状態であったが、この日もやはり圧巻だった。ライヴ終盤にきても全く衰えを見せない強靭なロビンのヴォ-カル。リック、トム、バー二ーの存在感も凄い。

"Scent Of A Woman"の余韻に浸る間もなく、フィードバック音に導かれて最後の曲"Dream Police"が始まる。へヴィさ、ポップセンス、ユーモア。Cheap Trickの魅力が全て凝縮されたこの名曲に身を任せながら、私はこの場に居合わせたことを感謝していた。"Goodnight Now"… ああ、終わっちゃった。

東北の、とても小さなホールで見たCheap Trick。ライヴはキャリアの集大成といえる内容だったが、そこには確かにバンドの過去だけでなく、未来があった。未来につながる道とそれを照らす強い意志。これを持ちえている限り、このバンドは永遠に続くのではないかとさえ思ってしまった。

set list:
1.Fan Club
2.Oh Candy
3.I Don't Love Here Anymore
4.It All Comes Back To You
5.Carnival Game
6.Look Out
・・・・・・・・・・・・・
7.Just Got Back
8.Big Eyes
9.If You Want My Love
10.Pop Drone
11.My Obsession
12.I Want You To Want Me
13.Best Friend
14.Never Had A Lot To Lose
15.Words
16.Downed
17.Special One
18.Heaven Tonight
19.Ain't That A Shame
20.Surrender
21.Scent Of A Woman
22.Dream Police
23.Goodnight Now

【来日公演2003年・その1】Summer Sonic 2003(Tokyo) at Chiba Marine Stadium 8/2/2003

□■回想メモ■□
2年ぶりの来日となったCheap Trick目当てに、初めて参加したサマー・ソニック。ライブの興奮冷めやらず、帰りの電車内で一気にライブリポートを書いたのをよく覚えています。久々に読み返したら、やはり勢いだけで書いた酷い文章だったので、全体的に書き直しました。

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まず何より注目していたのはセット・リストだ。これだけ出演アーティストの平均年齢が若く、且つ勢いのあるバンドばかりのラインナップの中で、更に1時間に満たないセットの中で、最早超ベテランといえる域に達したCheap Trickがどう存在感をアピールすることができるだろうか。

私は選曲さえ間違えなければ、Cheap Trickに興味のない人も必ず引き付けることができると確信していた。そして、これがもうほとんど文句のつけようがない選曲、内容であったのだ。 Cheap Trickの楽曲中、特に即効性のあるパワフルでキャッチーな曲を中心に据え、最新作「Special One」からも4曲披露。アルバムの多様性と、ロックバンドとしてのCheap Trickの性格、そして現役ぶりを同時にアピールするバランスのよい構成により、短いながらも内容のギュッと詰まったライヴを楽しめた。

14時35分、昨日までのはっきりしない気候が嘘のように晴れ上がった空の下、定時にメンバーがステージに登場。この暑いのにビシッと赤のスーツで決めたリック、麦藁帽子(?)に鉄腕アトムのTシャツを着たトム。少し以前よりふっくらしたロビンは白のスーツ(途中で脱いでTシャツ姿に)に、帽子を目深に被っていた。 オープニングは定番の"Hello There" 2曲めの"Big Eyes"は少々意外な選曲だったが、コンパクトでポップでハードな、Cheap Trickの魅力をダイレクトに伝える曲なので、悪くなかったと思う。

前・後ろでブロック(スペース)を区切られたマリンスタジアムの広いグラウンド。私が見ていたのはステージに近い方のブロックの後ろの方であったが、Cheap Trick出演時は客はまだ7割の入りで、リラックスした体勢で観戦することができた。 自分の周辺のオーディエンスの様子を窺うことも出来たのだが、恐らく今日初めてCheap Trickを見たであろう10代のファンも、ステージに集中しているのがわかる。

3曲めは「Special One」からの日本での1stシングル"Too Much" この曲に関しては、凄く聴きたいけれど、果たしてサマソニのワクの中に組み込むのはどうだろうか‥と少々複雑な気持ちがあったのだが、3曲めという配置がよく、セット全体の流れにうまくハマっていた。それにしても、改めて"Too Much"は素晴らしい曲である。CDのバージョンももちろん良いが、ライヴでダイナミズムが増したサウンドも最高だ!

4曲めは、やはり前半で登場した"I Want You To Want Me" イントロの「I Want You‥‥To Want ME!!」のロビンの掛け声にいつもより力がこもってる! サウンド面でも、構成/メロディの面でもCheap Trickの魅力が溢れたこの楽曲の印象的な旋律に、皆大盛り上がりで手を振り上げる「Cryin' Cryin'~♪」

そしてこの後、セット中盤の流れはまさに圧巻だった。私の後ろで見ていた、10代の男の子の口から何度「マジでスゲエ‥‥」という言葉が洩れたことか(笑)

個人的に、"Anytime" "The Ballad Of T.V. Violence" "Best Friend"といったCheap Trickの重厚な側面をアピールする曲は最低一曲は組み込んでほしいと思っていたのだが、やってくれました。「Special One」におけるハイライトの1曲といえる"Best Friend"だ! ドゥーミィと表現してもおかしくないような、まるで深海をイメージさせる重々しいイントロに、奇妙 という表現をしたくなるリックのコ-ラス。アタックの強いトムのべース。"狂気さ"さえ感じるロビンのダイナミックなヴォーカル。サビでの爆発力は、アルバム・バージョン同様、いやそれ以上にライブ・バンドとしてのポテンシャルを十二分にアピールしていた。

圧倒的な"Best Friend"が終わると、これは何が何でもやって欲しかった"Clock Strikes Ten" キャッチーなイントロに、疾走感と楽しさを有したこの3コードの名曲は、場内の空気を更にヒートさせた。

続いたのは再び「Special One」から"My Obsession" これも嬉しい選曲。「Cheap Trick'97」アルバムのデモ集で、またプートのライヴ音源でここ数年聴きまくった曲だが、ライヴだとまた格別である。この曲での場内の盛り上がりは比較的静かであったが、このさりげない、しかし印象的なメロディが心に刻まれたオーディエンスも少なくないに違いない。

次は、これを演らなければ始まらない。代表曲中の代表曲"Dream Police" キャッチーを極めたメロディ。Cheap Trickらしい溌剌としたサウンドとリズム。色褪せることのない不変の名曲にあわせ、ファンはもちろんステージ袖でずっとライヴを観戦していたDatsunsのメンバーも歌いまくる(笑)

"Ain't That A Shame"‥‥これはちょっと意外な選曲だな‥と思っていると、ここであるハプニングが発生。とてもライヴに集中できる状態でなく、しばらく心ここにあらず状態になってしまう。Cheap Trickのオリジナルではないが、この曲の持つ楽しい雰囲気は広い空の下のフェスティバルに似合っていた。

続く代表曲"Surrender"の演奏の最中も、集中できずまだ頭が少しぼんやりしていたのだけれど‥‥しかし、今更という話だが"Surrender"というのは大した曲だ。シンプルな構成でありながら、中に詰まっているもののいかに濃いことか。Cheap Trickの、というよりロック史に残る名曲ということが出来るだろう。流石に、Cheap Trickは知らないけれどこの曲は聴いたことがある、という人も多いようで、アリーナの熱気は一気に上昇する。

そして時間はあっという間に過ぎ‥‥ラストは、「Special One」のオープニング・チューン"Scent Of A Woman"! 最後を新曲で閉めたのは大変に有意義だったと思う。Cheap Trickのアルバムを聴く通りの"あの音"でソリッドに激しく畳み掛けるリックのギター。音の粒立ちがはっきりとした、そしてパワフルなトムのべース。リズムを支える切れのよさと重さを兼ね備えたバー二ーのドラムス。マイクを両手でしっかり持ち、凄まじいとしか表現できないシャウトを響かせるロビン。ライヴ・バンドとして慣らすCheap Trickならではの、凄みが炸裂したエンディングだった。

フェスティバルの一部である、50分に満たないショウではあったが、Cheap Trickの魅力を伝えるには十分なエキサイティングなライヴだったと思う。

最後に、決して良好とは言えない会場の状況下で、あれだけクオリティの高いいつも通りのサウンドを作り出していたバンドのクルーの皆さんにも感謝します。

set list:
1.Hello There
2.Big Eyes
3.Too Much
4.I Want You To Want Me
5.Best Friend
6.Clock Strikes Ten
7.My Obsession
8.Dream Police
9.Ain't That A Shame
10.Surrender
11.Scent Of A Woman