Cheap Trickのテキスト書庫

Cheap Trickファンサイトで過去に書いた文を加筆訂正して転載します

【Discography】Standing On The Edge(1985)

1.Little Sister
2.Tonight It's You
3.She's Got Motion
4.Love Comes
5.How About You
6.Standing On The Edge
7.This Time Around
8.Rock All Night
9.Cover Girl
10.Wild Wild Women

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1985年7月にリリースされた、8枚目のスタジオ・フル・アルバム。全米総合チャート(Billboard 200)で最高位35位を記録。

前作「Next Position Please」(1983)がセ-ルス面で惨敗。輸入盤裏ジャケットのリック・ニールセンの"Rick Nelson"という、初歩的なミスプリントからも伺えるように、 レーベルにおけるバンドのプライオリティが決して高くない状況下で作られたアルバムであるが、シングル・カットされたパワー・バラード"Tonight It's You"は、総合シングル・チャート(Billboard Hot 100)でトップ50入りを記録。"She's Tight"以来3年ぶりのメジャー・ヒットで存在感をアピールした。

「Found All The Parts」でのレコーディング以来、4年ぶりに手を組んだジャック・ダグラスがプロデュースを担当。ジャックは単独でプロデューサーとしてクレジットされているが、当時ジャックはオノ・ヨーコとの間に、ジョン・レノンの「Double Fantasy」のギャランティに関する法的問題を抱えており、訴訟に集中するためにミキシングの途中で仕事をトニー・プラットに引き継いだ。

疾走感のある"Little Sister" Small Faces、Yardbirdsといった1960年代のブリティッシュ・バンドの影響が伺える"How About You" ヘヴィなバッキングに、ロビンの張りのあるヴォーカルが映えるアルバム・タイトル曲。高揚感を喚起するメロディを備えた"This Time Around" ポップな"Cover Girl"、叙情的な美しいバラード"Love Comes"と、名曲、佳曲が揃っている。

重厚なキーボードとエレクトロニック・パーカッションをフィーチュアした"She's Got Motion"や、AC/DCの影響が色濃い"Wild Wild Women"といった完成度、オリジナリティ不足の曲もあるものの、当時メインストリームだったアメリカン・ハードロックや、ヘヴィ・メタルCheap Trickの音楽性との接点を突き詰め、それらに比肩するモダンでスケールの大きなサウンドを獲得したアルバムといえるだろう。

全10曲中9曲でキーボードを弾き、一部ギターも演奏。ソングライティングでも全面的に関わったシンガー・ソングライター・マーク・ラディスの貢献度の高さも見逃せない。

【Discography】Next Position Please(1983)

1.I Can't Take It
2.Borderline
3.I Don't Love Here Anymore
4.Next Position Please
5.Younger Girls
6.Dancing The Night Away
7.You Talk Too Much
8.3-D
9.You Say Jump
10.Y.O.Y.O.Y
11.Won't Take No For An Answer
12.Heaven's Falling
13.Invaders Of The Heart
14.Don't Make Our Love A Crime

[authorized version]
1.Can't Take It
2.Borderline
3.I Don't Love Here Anymore
4.Next Position Please
5.Younger Girls.
6.Don't Make Our Love A Crime
7.3-D
8.You Talk Too Much
9.Y.O.Y.O.Y
10.Won't Take No For An Answer
11.Heaven's Falling
12.Invaders Of The Heart
13.Twisted Heart
14.Don't Hit Me With Love
15.You Say Jump
16.Dancing The Night Away


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Cheap Trickのメンバーと1960年代から繋がりがあり、気心のしれたトッド・ラングレンをプロデューサーに迎えた1983年リリース作。

一聴してトッドのディレクションと解る、エッジ抑えめの洗練された音はCheap Trickの生のライブのそれとは距離があるが、その分バンドの持つポップ・センスが良く活かされた名曲が軒を並べている。ミュージック・ビデオが作られた、ロビン作の"I Can't Take It"を筆頭に、バンドのライブ・フェイバリット"Borderline" 、陰りのあるメロディが印象的な"I Don't Love Here Anymore"、もの悲しいバラード"Y.O.Y.O.Y"、歌詞が当時の彼らの心情を吐露しているようなアルバム・タイトル曲と、ソングライティングで新生面を見せた曲が多い。

トッドが提供したハード・ポップ"Heaven's Falling"も、上手くハマっているが、オリジナル版では、レーベルの意向で収録されたMotorsのカヴァー"Dancing The Night Away"(イアン・テイラーがプロデュース)と、これもレーベルの指示でシングル向けの曲として追加で<書かされた>(が、実際にはシングル・カットされなかった)"You Say Jump"の2曲は音楽的に明らかに浮いており、流れを遮っている。

2012年にリリースされたボックス・セット「The Complete Epic Albums Collection」に収録され、後にサブスクでも聴けるようになった"authorized version"は、そのタイトル通りバンドの意向を反映した「Next Position Please」のニュー・バージョン。オリジナルの曲順を入れ替え、"Twisted Heart" と、未発表曲"Don't Hit Me With Love"を追加収録した、決定版といえる内容だ。

【Discography】One On One(1982)

1. I Want You
2. One On One
3. If You Want My Love
4. Oo La La La
5. Lookin' Out For Number One 6.She's Tight
7.Time Is Runnin'
8.Saturday At Midnight
9.Love's Got A Hold On Me
10.I Want Be Man
11.Four Letter Word


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「All Shook Up」に続き、イギリス人のプロデューサー・ロイ・トーマス・ベイカー(The Cars、Foreigner、Free、Queen等)を迎えて制作された6枚目のスタジオ・フル・アルバム。ジョン・ブラントを新ベーシストとして迎えての初のアルバムとなった。

1981年に、アニメ映画「Heavy Metal」に提供した"Reach Out"と"You Must Be Dreamin'"をロイはプロデュースしており、その際にCheap Trickのメンバーと、お互いの都合が合ったらまた仕事をしようと話をしていたという。

重厚で荒々しいギター・リフと、それに呼応したロビンのシャウト・ヴォーカルが全体のトーンを決定づけており、ストレートなロック・チューンがアルバムの軸になっている。

Cheap Trickをへヴィ・メタル寄りのバンドと見なしていた、ロイの方向性が反映された音のテンションは非常に高い。ジョンがベースを弾いているのは"If You Want My Love" "She's Tight" "Saturday At Midnight"の3曲のみで、他の全曲をリックがベースを担当しているが、そうと感じさせないバンドとしての勢いが演奏に漲っている。

曲単体で聴くと、キャッチーな名曲、佳曲が揃っているが、ディスコ調のグルーヴを持った"Saturday At Midnight"や、"The Stroke(ビリー・スクワイア)を想起させる"Four Letter Word"など、チャレンジングな曲が実を結んているとはいえず、アルバムとしての統一感にはやや欠けるのが惜しい。

「All Shook Up」がセールス的に芳しくなく、また評論家の評価も厳しかったことがあり、Cheap Trickにとっては起死回生をかけたアルバムであったが、アルバムは全米で最高位39位(ビルボード200)。パワー・バラードの"If You Want My Love"がHot100で最高位45位。オーストラリアではno.1になるヒットに。セカンド・シングルの"She's Tight"も最高位65位と、まずまずの成果をおさめた。

【Discography】All Shook Up(1980)

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1.Stop This Game
2.Just Got Back
3.Baby Loves To Rock
4.Can't Stop It But I'm Gonna Try
5.World's Greatest Lover
6.High Priest Of Rhythmic Noise
7.Love Comes A-Tumblin' Down
8.I Love You Honey But I Hate Your Friends
9.Go For The Throat
(Use Your Own Imagination)
10.Who'd King
Bonus tracks:
11.Everything Works If You Let It
12.Day Tripper(Live, Short Version)
13.Can't Hold On(Live)
14.Such A Good Girl
15.Take Me I'm Yours

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Beatlesで名高いジョージ・マーティンがプロデュースした5枚目のスタジオ・アルバム。カリブ海にあるモントセラト島のジョージのスタジオでレコーディングされ、イギリスでヴォーカルのレコーディングとミックス・ダウンが行われた。

当時、バンドでの立場に不満を感じていたトム・ピーターソンは、プリ・プロダクションとイギリスでの作業に参加せず、アルバムがリリースされる2か月前の1980年8月にCheap Trickを脱退。難しい状況で作られたアルバムであるが、メンバーのお気に入りとして知られており、バン・E、リック、ロビンはフェイバリットの1枚に挙げている。

リックがピアノで書いた、曲の原型が1970年代初期に作られていたバラード"World Greatest Lover"を除き、収録曲の殆どはこのアルバムのセッションで書かれた新しい曲とされている。

楽曲の方向性は1960年から1950年代へとルーツを辿りつつ、これ以前の4枚のアルバムでも随所で聴けたBeatles的なサウンドを、ジョージ・マーティンの助力でより直接的に表現。1stシングル"Stop This Game"(ビルボードHot100で最高位48位)や"World Greatest Lover"に象徴されるように、オーケストレーションをフィーチュアしたCheap Trick史上随一のドラマティックさを持った曲がアルバムの核を担っている。

「各々の曲がストーリーを持っている」とロビンが評する多彩な楽曲と、キーボードをフィーチュア、エフェクトも随所で活かした実験的なサウンド、ライヴ感のある豪快なギター・サウンドの融合は、ヘヴィでキャッチーな唯一無二のハード・ロックとして結実。ベースもリック・ニールセンが担当した"Baby Loves To Rock"に表れているように、既にメンバー間の信頼関係とケミストリーが揺らいでいる状態ではあったが、ジョージとバンド・メンバーの豊富なアイディアが活かされたアルバムである。ビルボードのアルバム総合チャートで最高位24位を記録した。

【Discography】Dream Police(1979)

1.Dream Police
2.Way Of The World
3.The House Is Rockin'
(With Domestic Problems)
4.Gonna Raise Hell
5.I'll Be With You Tonight
6.Voices
7.Writing On The Wall
8.I Know What I Want
9.Need Your Love
Bonus tracks:
10.The House Is Rockin'
(With Domestic Problems)(Live)
11.Way Of The World(Live)
12.Dream Police(No Strings Version)
13.I Know What I Want(Live)


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トム・ウォーマンがプロデュースした最後のアルバムとなった、4thスタジオ作。当初は1979年2月のリリースを予定していたが「at武道館」の予想外の大ヒットで延期され、同年9月にリリースされた。ビルボード200でチャート最高位6位。

曲の原型("Hot Tomato")が1970年代初期に完成していた"I'll Be With You Tonight"、これも活動初期に書かれたインストゥルメンタル曲"Ultramental"を中間部に使っている"Dream Police"(1stシングル。全米最高位26位)のように、前作「Heaven Tonight」の路線を踏襲したポップなハード・ロック曲もありつつ、曲のバラエティとアレンジがより多様化した作風になっている。

リックのメロディ・センスが遺憾なく発揮されたバラード"Voices"は、2ndシングルとしてリリースされ全米最高位32位を記録。アルバムのクレジットには無いが、この曲ではTOTOスティーヴ・ルカサーアコースティック・ギターを弾き、ギター・ソロも担当している。

トム・ピーターソンは"Voices"のデモ段階でヴォーカルを歌っていたが、これは結局収録されず、"I Know What I Want"で初のリード・ヴォーカルを担当。この曲は現在に至るまでライブで重要なレパートリーとして演奏され続けている。

ロビンのヴォーカル、そして楽器の表現の幅は広がり、音もより重厚に。ディスコ調リズムを取り入れ、ストリングスを配した9分超えの"Gonna Raise Hell" 、7分を超える長尺の"Need Your Love"と、ドラマティックな2曲がA、B面夫々の最後を締める構成が秀逸。実験的でありながらアルバムとしての整合感も失わない、1970年代のCheap Trickの集大成といえる名作だ。

【Discography】Heaven Tonight(1978)

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1.Surrender
2.On Top Of The World
3.California Man
4.High Roller
5.Auf Wiedersehen
6.Takin' Me Back
7.On The Radio
8.Heaven Tonight
9.Stiff Competition
10.How Are You?
11.Oh Claire
Bonus tracks:
12.Stiff Competition
(previously unreleased outtake)
13.Surrender
(previously unreleased outtake)

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前作「In Color」に続き、トム・ウォーマンがプロデュースした3rdアルバム。初来日公演の直前。1978年の4月24日にリリースされた。当初アルバムのタイトルは『American Standard』が予定されていたが変更になった。

初のアメリカでのメジャー・ヒットを記録(ビルボードHot 100で最高位62位)したロック・アンセム"Surrender"をはじめ、"High Roller" "Auf Wiedersehen" "Heaven Tonight"といったオリジナル曲と、ロイ・ウッドのカヴァー"California Man"はバンドの活動初期からライブで演奏されていた曲。残りの半数の曲はアルバムのレコーディング・セッションで作られた。

1stアルバムの陰りのあるアグレッシヴなギター・サウンド、「In Color」のコンパクトにまとまったポップ・センス。両者の美点をバランス良く受け継ぎつつ、ハードでありながらキャッチーというCheap Trickの音楽性がより成熟されたアルバムである。

ロビンが主に書いた曲に、リックとトム・ピーターソンが手を加えた"High Roller"をはじめ、メンバーが共作した曲が半数の5曲。曲調はさらに多様化し、音の面では曲に合わせるようにアレンジも柔軟かつ緻密になった。

ゲストのジェイ・ウインディングの鍵盤をアルバム全編でフィーチュア。ピーターソンはこのアルバムのレコーディングで、初めてトレードマークとなる12弦ベースを使用した。アルバム・タイトル曲"Heaven Tonight"でリックはヘイマーのマンドセロを弾き、チェロとハープシコードが使われている。ロイ・ウッドのオリジナル・バージョンのポップさを活かしつつ見事にCheap Trickハード・ロックに仕上げた"California Manには"、バンドのアレンジのセンスの素晴らしさが表れている。

本国アメリカでのアルバムのチャート成績こそ最高位48位(ビルボード)とまずまずだったものの、音楽面では楽曲のバラエティと洗練、ダイナミズムを同時に手に入れ、着実なステップ・アップを記した1970年代を代表するアメリカン・ロックの名盤といえるだろう。

【Discography】In Color(1977)

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In Color(1977)

1.Hello There
2.Big Eyes
3.Downed
4.I Want You To Want Me
5.You're All Talk
6.Oh Calroline
7.Clock Strikes Ten
8.Southern Girls
9.Come On,Come On
10.So Good To See You

Bonus tracks:
11.Oh Boy(instrumental version)
12.Southern Girls(previously unreleased demo)
13.Come On,Come On
(previously unreleased demo)
14.You're All Talk
(previously unreleased live version)
15.Goodnight
(previously unreleased live version)


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  1977年9月にリリースされた2ndアルバム。(ジャケット裏面に書かれているように、In Colorの後に『And in Black and White』とタイトルが続く。レコード会社の指示で迎えられたトム・ウォーマンがプロデュースを担当している。

  前身バンドSick Man Of Europe時代に原型("I'm A Surprise")が出来ていた"So Good To See You" 当初1stアルバムに収録予定だった"I Want You To Want Me"をはじめとして、1stアルバム同様に収録曲の過半数は既にライブで定番となっていた曲であるが、ウォーマンの洗練された、ポップ・サイドを強調したディレクションにより音の印象が大きく異なるアルバムに仕上がっている。

  メンバーが常々不満を述べているサウンド・プロダクションはダイナミズムに欠け、角のとれたものだが、全曲素晴らしい完成度で曲調のバラエティも豊か。シンプルながら巧妙なフックと構成を持った曲が揃っており、ソングライターとしてのリック・ニールセンの才能とセンスを実感できるアルバムといえるだろう("You're All Talk"と"Southern Girls"はリックとトム・ピーターソンの共作) シングルカットされたtr.4、tr.7と併せ日本では大ヒットを記録し、人気を確立した。

キーボードでジェイ・ウィンディングが参加。"I Want You To Want Me"でジェイ・グレイドンがギター(イントロとアウトロの部分)を弾いている。

1997年にスティーヴ・アルビニのプロデュースで、メンバーの本来意図したサウンドでアルバムの全曲が再録音されたが、その音源はまだ正式にリリースされていない。